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2022年新作映画レビュー

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2022年に見た新作映画のレビューです。
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2022年9月の記事一覧

「よだかの片想い」恋愛のフェイドイン、フェイドアウト。そして映画監督は何に恋しているかの一考察

松井玲奈の主演ということで劇場で観ることにする。松井玲奈は俳優として、静かな役も激しい役もコミカルな役もこなせる、なかなかできる女優さんだと思っている。そして、文筆活動もやっているわけで、創作に対する感性みたいなものが、シャープに観客に伝わってくるような演技をするといつも感心している。そして、この顔にアザのあるというマイノリティーの女性の主人公という、内面をどう演じるかがすごく難しい役で、なかなか印象深い演技をこなしていた。 原作は島本理生。脚本、城定秀雄。監督、安川有果と

「ヘルドッグス」新時代のハードボイルドアクションの可能性を考える

ネットでの評判もそこそこなので期待して観に行ったが、予想以上にアクションシーンに興奮する。なかなかの秀作。原田眞人監督、昨年公開の「燃えよ剣」と同じ岡田准一主演映画だが、やはり時代劇より、現代劇の方がシャープな感じの仕上がり。あまり考えることなく好き勝手にできるからだろう。映像に岡田の俳優としての主張がすごく感じられた。 深町秋生の原作は大藪春彦賞の候補になったということもあり、読んではいないがその概観はかなり硬質なものだと思う。それを原田眞人監督が見事に映像として昇華させ

「沈黙のパレード」やはり、映画としての演出、画造りをして欲しいのですよね。そうすれば、もっと面白くなると思うのだが…

私は映画館では、前の方で観るのが慣例なのだが、今日も前から3番目の真ん中で見ていた。映画が半分くらい進んだ時に、横の離れたところになんか光を感じた。本当に、映画見ながらスマホいじってる人がいるとは!!初遭遇に少し興奮した。まあ、客も3割くらいしか入ってなかったということでいじったとも思えるが、後ろからはかなり目立っていたのでは?映画館というところが、どういうところかの認識ができていないというかね、本当にやめていただきたい。 で、何故、こんな枕を投げるかといえば、映画とテレビ

「川っぺりムコリッタ」人は生きているだけで、本当に感謝だと思える空気感が堪らなく素敵である。

荻上直子監督、久々の長編映画。ということで、かなり楽しみにしていた作品。昨年はテレビで「珈琲いかがでしょう」が放映され、荻上ワールドの、人間の趣深さみたいなものを描く手腕はさすがだなと思っていたからなおさらだ。そして、「珈琲〜」の主人公も過去の荒んだ自分の人生を抱えながら、現在を生きてく感じだったが、この映画の主人公、松山ケンイチも似たような部分がある。こういう人間の本質を描くのが好きなのでしょうね、荻上監督。そして、「かもめ食堂」とか「めがね」と似た部分もあるが、また違った

「グッバイ・クルエル・ワールド」日本のアクション映画の現在地を考えさせられる

2年ぶりの大森立嗣監督作品。西島秀俊をはじめ、なかなか大物キャストが揃って賑やかな感じなので期待して観に行った。結果的には、今ひとつスピード感に欠けるのと、最後まで追いかけっこするわけではないのでもう一つ観ている方に疲労感を感じさせないのが不満。あと、ただのヤクザ通しのイザコザに上映時間が長い。こういうアクション映画は、1時間40分以内でまとめないとスマートでないというのが私の持論である。まあ、削れるところはいっぱいあると思う。 最後は、主要人物が全部消えてしまう話だ。キャ

「LOVE LIFE」恋と人生いう基本テーマを丁寧に紡ぎ、監督の頑なな演出方法に明確な現実の心の揺らぎが見える作品

昨日、入ってきたゴダールの訃報。彼の映画はいつも何かを追いかけるように映像が繋がれていた感じがする。そして、映画というものの可能性を常に追い求めていたと私は彼の映像に感じるものがあった。ゴダール的なものは、映画を革新するベクトルを求めるものにとっては有効だったが、いわゆるエンタメを期待するものにはノイズでしかなかったかもしれない。だが、これからもゴダールの映像は多くの者に影響を与えることは確かだ。まずは、ご冥福をお祈りします。 そんな日に「LOVE LIFE」という実にシン

「百花」丁寧に作り上げた、人間の記憶の物語。原田美枝子という女優の現在の凄みを堪能できる一作

菅田将暉、長澤まさみというところの出演が、この映画の客層を決めたりするのだろう。そして、映画の中の二人は、見事に良き夫婦を演じていた。しかし、この映画の主人公は原田美枝子だと私は思う。彼女の演技なしにこの映画は成立しないし、同世代の女優がこういう役をこなし、演じる歳になったのだということで、自分自身が緊張感を持って生きていかねばと思わせる一作だった。 ファーストシーンから、ワンシーンワンカットを基本として画が紡がれていく。説明は最低限に抑え、そのカメラの動きが原田美枝子の混

「この子は邪悪」最後のネタあかしは、なかなか意外な話で救いはない感じだが、南沙良の演技には将来性を感じた。

南沙良が主演ということだけで観に行った。脚本、監督はこれが二作目の片岡翔。彼の作品を観るのは初めてだが、なかなか丁寧に演出してると思う。そして、脚本を構築する腕もあるようで、最後までネタが観客にバレないように、なかなかサスペンスフルな作品になっている。最後のオチみたいな、新しい生活を南沙良が受け入れているのが、今ひとつ捻りがない気はするが、まあ、それなりに楽しめましたというところ。(ネタバレありますので、この先注意) 舞台は、精神科の診療所。そして、最初から人間の本能を無く

「地下室のヘンな穴」フランス映画NO1ヒットというキャッチだが、かなりの低予算の風刺映画

第72回ベルリン映画祭正式出品作品というから、そこそこの作品と思いきや、上映時間74分の低予算映画。予告編でその安っぽさみたいなものはわかったが、地下室にぽっかり空いた“穴”に入ると「12時間進んで、3日若返る」という設定のくだらなさに、観ずにはいられなかった。 そして、観た結果は、予想通りのくだらなさであったと言える。女性の若返りへのあくなき探求と、男性の性力を保つことへの執着と、そんなものをテーマにした風刺激だった。ある意味、面白いといえば、面白いのだが、日本で作れば、

「さかなのこ」この題材で映画を作るなら、これ以上のものは作れないかもしれないと思わせる快作

沖田修一監督、渾身の一作という感じに見えた。さかなクンの自伝を原作に前田司郎氏との共同脚本で全体構成、細かい部分も、ソツがないできである。見終わった後に元気をもらえる映画にもなっている。そして、映画の最初にもクレジットが出てくるが、主人公を男とか女に限定しないで、ただのミー坊にしたことが最高に映画を自由にしている。夏休みが終わってからの公開にはなったが、「SABAKAN」に続き、親子で見てほしい作品である。 主人公をのんにしたところから脚本を組んだのか、逆なのかはわからない

「アキラとあきら」池井戸潤の原作の面白さ以上のものが、もう一つ欲しい気がする作品。

三木孝浩監督の作品が続け様に「今夜、世界からこの恋が消えても」「TANG」この作品と3作品が公開されている。パンデミックの影響や番組編成がうまくなくてこうなったのだろうが、これはある意味日本映画界の歪みみたいなものを感じたりする。三木監督自体は、可もなく不可もなく、それなりのレベルの映画を作れる人だと私は思っているのでいいのだが、やはり、映画って多くの監督が興行として切磋琢磨するようなものであると思うので、配給側にも気を遣ってもらいたいし、製作側も一人の監督にオファーが偏るこ

「異動辞令は音楽隊!」刑事と音楽隊という異質なものを一つにして、上手くまとめられた映画!

「ミッドナイトスワン」以来の内田英治監督作品。なんか全体に、黄色みがかった画面は、前作と同じで「こういう色味が好きなのだろうな」と思ったりした。前作は、本当に底辺の弱者を描くことで観客に有機的な心象風景を訴えかけていたが、本作の舞台は警察。いわゆる公のなかで古臭くなってしまったアウトローが、忘れていたさまざまなものを、引き寄せるような話。前作とは舞台は違えど、人間に対する優しさと厳しさみたいなものをうまく2時間の中にまとめてあるのは同じ。オリジナル脚本でここまでしっかりした映