「この子は邪悪」最後のネタあかしは、なかなか意外な話で救いはない感じだが、南沙良の演技には将来性を感じた。
南沙良が主演ということだけで観に行った。脚本、監督はこれが二作目の片岡翔。彼の作品を観るのは初めてだが、なかなか丁寧に演出してると思う。そして、脚本を構築する腕もあるようで、最後までネタが観客にバレないように、なかなかサスペンスフルな作品になっている。最後のオチみたいな、新しい生活を南沙良が受け入れているのが、今ひとつ捻りがない気はするが、まあ、それなりに楽しめましたというところ。(ネタバレありますので、この先注意)
舞台は、精神科の診療所。そして、最初から人間の本能を無くしてしまったような人々が何人か現れ、大西流星がその人々を記録している図が出てくる。彼の母親も同じように、言葉を失ったようにボーっとしている。この回答が最後に一気にわかるわけだが、なかなか辛い話である。
そう、ここに出てくる出演者で、正気なのは、南沙良と大西流星だけなのだ。まあ、大西の祖母も正気なのだろうが口を聞かないのが不気味。そして、最初に語られるのは、南が子供の頃の交通事故で、母親は植物状態になったままで、妹は顔に大火傷をして、今はお面を被った生活をしているということ。父の玉木宏は、足を怪我しながらも診療所を続けている。
結構、舞台はシンプルだ。そして、一つの街の話として語られている。そういう意味では、観ているものにとっては、その家族の不思議な光景だけが映し出され、それを「なんだ?」とあばくような視線になるしかなく、それで映画に集中できる感じ。観客は、大西の目線で映画を観ることになるわけだ。
そして、始まって早々に、母親が目が覚めて帰ってくるということで話が展開し始める。母親役を少しエキセントリックな感じの桜井ユキにしたのは正解。その母親に違和感を感じる南。そして、その母親と同じ人が診療所に入るのを観たという大西。そんなところから、さまざまなことがわかってくる。妹は戸籍上では死んでいたということ。南は信じられなかったし、どんどん頭が混乱していく。そして、観客も混乱させられていく脚本はなかなか面白い。
結果的には、玉木が魂の入れ替えをおこなっていたという、なかなかシュールな話なのだが、昨今、電子データで人間の記憶を残すみたいなことを考えている人はいるわけで、そのデータがいわゆる移動できるという前提のものに考えたら、こういう犯罪というか、行為は起こるだろうなと思う。そして、映画を観た後に「できそう」と思えるところに不気味さがある。
そして、言葉を発しないでボーッとしてる人々は、ウサギと魂を入れ替えられたというわけだったのだが、ある意味、昨今の政府やテレビの発信に従順になってしまう日本人はウサギ状態とも言えるのか?とか皮肉なことも考えてしまったりした。まあ、話のネタ的には面白くはあるのだが、あまり後味が良くない映画である。だいたい、大西がウサギになった光景を見てしまうと、辛いのだ。この映画、ホラー映画ではないが、その一歩手前のところにあり、もう一つテーマ性がうまく映画としてコントロールされていないようにも感じたが、新しさを感じる人もいるだろう。
主演の南沙良は、女優としてなかなかの輝きみたいなものを持っているのを確認できた。表情の振れ幅も大きいし、色んな意味で、もっと美しく変化していく人だろう。これからの成長を期待したい。そう、次の主演作も観に行こうと思わせてくれる女優さんだ。