"風と共に去りぬ"が照らした僕の原点 ー 母、妻、そして娘たちへ
僕は今、人生で最も大きな決断の一つを前にしている。40歳にして初めての海外渡航。これまで一度も海を越えたことのない僕が、新しい世界へと踏み出そうとしている。
知らなかった世界との出会い
この決断を前に、僕は世界史を学び始めた。きっかけは子供たちのために買った「漫画 世界の歴史」だった。ナポレオンの野望、ロシアの歴史、中世ヨーロッパの騎士道精神...。日本という小さな枠の中でしか生きてこなかった僕にとって、それはまさに目から鱗が落ちる体験だった。
その中で出会った二つの小説が、僕の心に深く響いた。「アンクルトムの小屋」と「風と共に去りぬ」。同じ時代を描きながら、一方は黒人奴隷の視点から、もう一方は南部白人農場主の視点から描かれた物語。特に「風と共に去りぬ」の主人公スカーレット・オハラの生き様は、僕に強烈な印象を残した。
母の背中
そして、その物語は思いがけない形で、僕自身のルーツへと繋がっていった。
僕の母は、当時としては珍しい「強い女性」だった。女性が正社員として働き続けることも、育休を取得することも難しかった時代。それでも母は、複数のパートタイム仕事を掛け持ちしながら、家計を支えていた。家のローンを前倒しで返済していくその姿は、まるでスカーレットが荒廃したタラ農園を立て直していく姿のように、凛として美しかった。
男性が主たる稼ぎ手という「当たり前」が支配していた時代に、母は自分の道を自分で切り開いていった。その背中を見て育った僕は、知らず知らずのうちに、「強い女性」に魅力を感じるようになっていったのかもしれない。
妻との出会い
そして僕は、母に似た強さを持つ女性と出会い、結婚することになる。
妻は僕と出会う前、第一線で活躍するキャリアウーマンだった。自分の意志で道を選び、その道を力強く歩む姿に、僕は心を奪われた。それは単なる偶然ではなかったはずだ。母から受け継いだ「強い女性」への憧れが、妻との出会いを導いたのだと思う。
「風と共に去りぬ」が多くの読者の心を捉えた理由の一つは、スカーレットが自分の人生を自分で決めていく姿にあるという。彼女は周囲の反対や偏見、そして時代の制約と戦いながら、自分の道を歩み続けた。その姿に、多くの読者が共感し、勇気をもらったのだ。
次世代へ
今、僕には二人の娘がいる。彼女たちが将来、どんな人生を選ぶのか。それは完全に彼女たち自身の選択に委ねられるべきだと思う。
しかし同時に、僕は彼女たちに見せたいものがある。それは「人生は自分で決められる」という真実だ。40歳になって初めて海外に出る。これまで選ばなかった道を歩む。過去の失敗や後悔に縛られることなく、新しい一歩を踏み出す。そんな父の背中を通して、人生の可能性を感じ取ってほしい。
新しい物語の始まり
僕は今、涙を流しながらこの文章を書いている。それは後悔や不安の涙ではない。新しい物語を始める高揚感と決意の涙なのだ。
世界史を学び、「風と共に去りぬ」に出会い、そして母と妻の生き様を振り返る中で、僕は確信を得た。人生は、本気で変えたいと思えば、いつだって変えられる。年齢は言い訳にならない。むしろ、今の僕は人生で最も若い。なぜなら、これから始まる新しい人生において、今日が最初の一日だからだ。
妻に対しても、子供たちに対しても、そして何より自分自身に対して、僕は証明したい。人生は自分で選び取るものだということを。それは母が僕に教えてくれた最も大切な教訓であり、「風と共に去りぬ」が描き出した永遠のテーマでもある。
今、僕の新しい物語が始まろうとしている。それは決して一人の物語ではない。母から受け継いだ強さ、妻との誓い、そして子供たちへの願い。すべてが織り成す、かけがえのない物語。その第一歩を、僕は今、踏み出そうとしている。
おわりに
「風と共に去りぬ」のスカーレットは、最後にこう言う。「明日は、また明日の太陽が昇るわ」
そう、明日はまた新しい太陽が昇る。そして僕たちは、また一歩前に進む。母が教えてくれた強さを胸に、妻と共に歩み、子供たちに新しい世界を見せるために。
この決意と共に、僕の新しい章が始まる。それは怖いくらいにワクワクする冒険であり、同時に深い愛に支えられた旅路でもある。
明日は、また新しい太陽が昇る。そして僕は、また一歩を踏み出す。