唱歌の架け橋(第4回)
今日は、昔から多くの人に愛され、今でも訪日外国人に注目されている山に関わる名曲を紹介しよう。
そう、誰もが知っている富士山である。
『春の小川』と同様に、1911年(=大正元年)に作られた文部省唱歌が『ふじの山』であるが、作曲者は不明である。
作詞は、児童文学者の巖谷小波(いわや・さざなみ)である。
今回は、1番と2番の両方の歌詞に注目したいと思う。
【1】
あたまを雲の 上に出し
四方(しほう)の山を 見おろして
かみなりさまを 下に聞く
富士は日本(にっぽん)一の山
【2】
青空(あおぞら)高く そびえ立ち
からだに雪の 着物着て
霞(かすみ)のすそを 遠く曳(ひ)く
富士は日本一の山
以上である。
まず、いつものように、いくつの音で区切られるか見てみよう。
大きなまとまりで見ると、詩の形式では七五調のリズムである。
そのうち7音の部分に着目すると、1番の歌詞も2番の歌詞も、1〜3行目は4・3音での構成になっている。
最後の行だけ、3・4音(=ふじは・にっぽん)の構成だが、ここは曲のクライマックスとなる部分である。
高野辰之が作詞した『春の小川』を思い出してほしいのだが、「はーるの」「きーしの」などの出だしの音を伸ばすところは、各行とも同じである。
各行の出だしに限らず、言葉ごとに頭の音はすべて伸ばしていることにも気づくだろう。
この曲はニ長調なので、実は最初はラの音から始まるのだが、音が取りにくかったり、音痴の人が歌いづらかったりしないように、「移動ド唱法」で歌うことが良いと、学校教育上は推奨されている。
「移動ド唱法」で歌うと、曲の一番低い音がレからドに下がる。そして、ニ長調ではシャープ(♯)がドとファに付くのだが、それが2つとも取れて、「ドレミファソラシド」の音域で歌うことが可能になる。
出だしの音がソにあたり、「かみなりさまを」の「さ」が低音のドに、「富士は日本一の山」の「ふ」が高音のド、最後の「やま」が低音のドにあたる。
改めて、歌詞の内容に注目すると、これは完全に富士山を擬人化している。
さすが児童文学者と言えるくらい、子どもが親しみやすいように歌詞が工夫されている。
それと同時に、日本人なら誰もが共感する富士山の雄姿と、雪化粧したときの美しさをカンペキに表現できているところも素晴らしい。
「からだに雪の着物を着る」という表現は、秀逸である。
「地震カミナリ火事おやじ」ということわざにあるように、昔の人が恐れていたカミナリ様さえ下に聞くんだという、富士山の雄大さをうまく表現しているのも、日本人として誇らしくなる。
さらには、旋律の工夫も凝らされている。
「みーおろーしーてー」(=ソーラソファミレドー)のところや、
「【カーミナリ】さーまーを」(=【レーレレレ】ドレミファソ)のところでも分かるように、
階段を一段ずつ下りていく(上っていく)ような音の連なりは、抑揚のバランスと曲の盛り上がりに一役買っている。
日本の国歌は、法律で『君が代』と決まっているが、世界的にも知られている富士山を歌った『ふじの山』も、国歌にしても良いくらい、誇らしい曲である。