20世紀の歴史と文学(1987年)
1987年は、当時の国鉄が民営化されて、JRが誕生した年である。
JRグループ7社が発足し、それぞれ①JR北海道、②JR東日本、③JR東海、④JR西日本、⑤JR四国、⑥JR九州、⑦JR貨物に分割民営化された。
4月1日のことだった。
国の鉄道事業は、明治初期の1872年に、新橋・横浜(=今の桜木町駅)間で初めて鉄道が開通して以来、115年間も続いたことになる。
2年前の2022年には、鉄道開通150周年を迎えている。
さて、今日は文学関係の話をしよう。
奇しくも鉄道開通150周年の年に亡くなった推理小説家がいる。
そう、西村京太郎である。
西村京太郎は、91才で亡くなったのだが、1930年に生まれ、戦争を経験し、国鉄が民営化されたときは57才だった。
西村京太郎の鉄道ミステリーは人気作だった。十津川警部シリーズでも、鉄道のダイヤを調べる場面があったり、全国各地の寝台特急などの特急電車が登場したりするなど、現実世界に身を置いているような気分になることが多かった。
1980年代以降の作品に関しては、書店や図書館でタイトルを目にするたびにワクワクしたのは、私だけではないだろう。
テレビドラマ化もされて、渡瀬恒彦や愛川欽也、高橋英樹や高田純次のペアが、十津川警部役と亀井刑事役を演じた。
この1980年代以降2000年までは、まだ寝台特急が当たり前のようにあり、私も大阪から青森まで寝台特急「日本海」で旅をした思い出がある。
今では、ほとんどが廃止されてしまい、寂しい限りである。
ところで、国鉄(JR)の歴史を振り返るとき、開通当初は蒸気機関車だったこと、昔の山手線も1900年代は蒸気機関車だったことをご存じだろうか。
1907年に世に出た田山花袋の『少女病』では、今のJR中央線・総武線の前身にあたる甲武鉄道が登場する。
冒頭は、「山手線」の言葉で始まり、今でも使われている東京の地名が出てくる。
冒頭の一文は、次のとおりである。
山手線の朝の七時二十分の上り汽車が、代々木の電車停留場の崖下を地響きさせて通るころ、千駄谷の田畝(たんぼ)をてくてくと歩いていく男がある。
この男こそ、田山花袋自身がモデルになっている。
30代後半で既婚男性、子どももいる主人公の男は、駅へと向かう道で出会う女性に心惹かれ、毎朝乗る通勤電車で一緒になる女性を目にすると興奮するという、ドン引きするようなストーリーである。
だが、明治時代から実は痴漢被害はあって、まだ男尊女卑の考え方があった時代でも、甲武鉄道は女性専用車両を連結していた。
インターネットで甲武鉄道の画像検索をすると、当時の車両が今とは全然違うことにびっくりするだろう。
田山花袋の『少女病』が世に出てからちょうど80年後、昭和天皇も6才から86才へと激動の時代を生き抜かれた。
国鉄の旅行誘致キャンペーンソングとしてお茶の間に流れた『いい日旅立ち』は、1978年に谷村新司が作曲、山口百恵が歌った。
小説の中でも音楽の中でも、これからも鉄道の歴史は語られ続けていくのだろう。
リニアの時代は、すぐそこである。