唱歌の架け橋(第11回)
コロナ禍が始まる1年前の2019年、まだ平成31年だった1月のことだが、ある映画が公開された。
主演は、大森南朋。ほかに、貫地谷しほりも出演している。
童謡や唱歌の歌手としても知られている由紀さおりや、その姉の安田祥子も出演している。
大森南朋は、北原白秋を演じた。
以下、名だたる俳優・タレント(?)が、有名な作家や作曲家たちを演じているので挙げておこう。
●鈴木三重吉・・・柳沢慎吾
●菊池寛・・・津田寛治
●山田耕筰・・・AKIRA(EXILEメンバー)
●与謝野晶子・・・羽田美智子
●与謝野鉄幹・・・松重豊
あまり名前を聞かない俳優さんもいて、石川啄木、萩原朔太郎、高村光太郎、室生犀星も登場する。
え?早く映画のタイトルを言えって?
失礼、映画のタイトルは『この道』である。
Blu-rayやDVDがアマゾンでも購入できるが、品切れのようである。ゲオやツタヤに置いてあるかは分からない。
ヴァイオリンの演奏シーンも出るので、音楽が好きな人は楽しく観れると思う。
【1番】
この道は いつかきた道
ああ そうだよ
あかしやの花が 咲いてる
【2番】
あの丘は いつか見た丘
ああ そうだよ
ほら 白い時計台だよ
【3番】
この道は いつかきた道
ああ そうだよ
お母さまと 馬車で行ったよ
【4番】
あの雲も いつか見た雲
ああ そうだよ
山査子(さんざし)の 枝も垂れてる
以上である。
北原白秋が作詞して、山田耕筰が作曲した『この道』という歌は、1927年(=昭和2年)に発表された。
1番と2番に出てくる「この道」や時計台は、北原白秋が晩年に旅行した札幌市がモデルになっている。
3番と4番は、白秋の生まれ育った九州の熊本県と福岡県柳川市がモデルである。
山田耕筰が作ったこの曲は、ご存じの人も多いと思うが、ゆっくりとしたテンポで伸びやかに歌う感じが良い。
ゆったりとした気分で、北原白秋が書いた詩の情景を頭に浮かべながら、歌詞をかみしめるように歌うと、すごく胸を打つところもあるだろう。
『この道』という映画は、北原白秋と山田耕筰の人生が描かれたものである。北原白秋が42才、山田耕筰が31才のときに、この歌は誕生した。
白秋は、残念ながら1942年に57才で亡くなるが、山田耕筰は戦時を生き抜いて、1965年まで生きた。
一貫して、歌詞の中の柱になっている「ああそうだよ」という言葉。
「道」といえば、1914年に発表された高村光太郎の『道程』という詩も想起させる。
映画を知らなかった人は、機会があればぜひ観てみると良いだろう。