唱歌の架け橋(第13回)
今週の唱歌の架け橋シリーズは、先月に予告していたとおり、「北原白秋」の特集である。
今日は3日目になるが、これまた北原白秋と山田耕筰コンビによる作詞作曲の歌である。
曲名は、『からたちの花』である。
この歌詞は非常にシンプルであり、子ども向けに易しく書かれたものなのだが、現代の私たちは、大人も子どもも「からたちの花」が何なのか分かっているだろうか。
とりあえず、歌詞をひととおり見てみよう。
からたちの花が咲いたよ。
白い白い花が咲いたよ。
からたちのとげはいたいよ。
青い青い針のとげだよ。
からたちは畑の垣根よ。
いつもいつもとおる道だよ。
からたちも秋はみのるよ。
まろいまろい金のたまだよ。
からたちのそばで泣いたよ。
みんなみんなやさしかつたよ。
からたちの花が咲いたよ。
白い白い花が咲いたよ。
以上である。
日曜日の古典100選シリーズで、『中務内侍日記』を取り上げたが、そこで「花橘」(はなたちばな)の話をしたのを覚えているだろうか。
「からたち」というのは、正式には「唐橘」(からたちばな)という名前がある。
名前のとおり、中国から日本にわたってきた外来種の植物である。
ミカン科の植物なので、歌詞にもあるように白い花を咲かせ、私たちが桜に夢中になっている頃に、目立たない感じで小さく五弁の花びらを見せてくれる。
昔の人は、今で言う「塀」代わりに、侵入者を防ぐ目的で、垣根には「からたち」を植栽していた。歌詞にもあるように、トゲがあったので、畑の作物の盗難防止のための有刺鉄線代わりになっていたのである。
そして、万葉集の歌にも詠まれていることから、ものすごく長い歴史がある身近な植物である。
さて、この歌の特徴だが、3拍子と2拍子のリズムが交互に出てくるので、子ども向けに作られたとはいえ、子どもには歌いづらい。
ユーチューブで、ソプラノ歌手の野々村彩乃さんが歌っているので、検索して聴いてみると良いだろう。
この歌は、1925年(=大正14年)に発表されたが、『この道』と同様に、ゆるやかなテンポで歌うところは共通している。
山田耕筰らしい曲である。
そして、1954年には『からたちの花』という映画も公開されたのだが、これによって、北原白秋の生まれ育った福岡県柳川市が注目された。
映画は、北原白秋の幼年時代を描いたものだが、歌のほうは、北原白秋ではなく山田耕筰の幼年時代の思い出が反映されているところに注意して鑑賞すると良いだろう。
さて、からたちの実は秋に見ることができるが、今年の秋にそれを見れたらラッキーである。
まずは、からたちが自分の家や職場の近くにあるかどうか確認してみることである。
千年以上も共生している植物なのに、桜に見とれている人間に忘れられているのも気の毒である。