唱歌の架け橋(第15回)
山田耕筰と中山晋平の作曲の特徴が、昨日の記事で聴き比べることができただろうか。
今日は、「北原白秋」特集の最後になるが、最後は、北原白秋と中山晋平のコンビによって生まれた歌を紹介しよう。
1925年(=大正14年)に発表された『あめふり』である。
【1番】
あめあめ ふれふれ
かあさんが
じゃのめで おむかえ
うれしいな
ピッチピッチ チャップチャップ
ランランラン
【2番】
かけましょ かばんを
かあさんの
あとから ゆこゆこ
かねがなる
ピッチピッチ チャップチャップ
ランランラン
【3番】
あらあら あのこは
ずぶぬれだ
やなぎの ねかたで
ないている
ピッチピッチ チャップチャップ
ランランラン
【4番】
かあさん ぼくのを
かしましょか
きみきみ このかさ
さしたまえ
ピッチピッチ チャップチャップ
ランランラン
【5番】
ぼくなら いいんだ
かあさんの
おおきな じゃのめに
はいってく
ピッチピッチ チャップチャップ
ランランラン
以上である。
中山晋平の曲は、この『あめふり』の歌でも、子どもに喜ばれそうな旋律やテンポが引き立っている。
2拍子のリズムを曲全体を通して、生き生きと刻んでいるのは、歌っていて気持ちが良い。
そして、北原白秋の作詞も、カタカナの擬音語が入っているところがユニークである。
「ピッチピッチ」は、雨粒が傘に当たる音。「チャップチャップ」は、子どもが水たまりに足を踏み入れる音。「ランランラン」で、子どもの喜びを表現している。
「じゃのめ」や「ねかた」など、今の若い人にとっては、ひらがなだとパッとイメージが難しいかもしれない。
「じゃのめ」は「蛇の目」で、読んで字のごとく「ヘビの目」である。
竹などで作られた同心円状の和傘(わがさ)が、かつては女性用の傘として一般的だったのだが、今ではビニール傘やナイロン傘が普及して、「蛇の目」という言葉もほとんど使われなくなった。
ミシンも「ジャノメミシン」というミシンメーカーの名前が有名だった。(注意したいのは、ジャノメミシンという会社が設立されたのは1950年である。)
「ねかた」というのは、「根方」つまり「根の方」という意味であり、この歌詞では、柳の木の下で子どもが泣いていたということである。
その子に自分の傘を貸してあげようとお母さんに言って、自分はお母さんの大きな蛇の目の傘の中に入るという、なんとも微笑ましい光景が目に浮かぶと、歌っていてほっこりするものだ。
ほかにも、「かけましょ かばんを」という歌詞は、保育園や幼稚園の肩掛けカバンを思い出すし、「かねがなる」で下校時のチャイムが脳裏によみがえる。
「きみきみ、このかさ、さしたまえ」の「〜したまえ」という言い方も、昔のお偉いさんはよく言っていたなあと、クスッと笑える部分である。