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【オーストラリア・パース生活】火葬の打合せに行ってきました/オーストラリアの火葬事情
先週の記事でオーストラリアのお葬式について書きましたが、実はその2週間後、パースで身近な人がまた一人旅立ってしまいました。
今回亡くなったJ氏(80歳)はアルツハイマー型認知症を患っていたのですが、彼には家族がいなかったため、私のパートナーであるP氏(63歳)と、同居人であるG氏(84歳)が身元引受人としてJ氏の身の回りのお世話や生活の管理をしていました。症状が大分進行したため、最後の1年半ほどは施設のお世話になっていましたが、死後の手続きの諸々は身元引受人であるP氏とG氏が行う必要がありましたので、私も一緒に火葬の打合せに行ってきたというわけです。
さて、本題に入る前に、今回の登場人物の関係性が少し分かりづらいかと思うので、簡単に説明しておこうと思います。
P氏(63歳/男/オーストラリア出身)
世間一般的に見れば、私のパートナー的存在。専門は心理学(Ph.D.)。
G氏(84歳/男/オーストラリア出身)
P氏の元上司であり恩師。P氏とは30年以上一緒に住んでおり、もはや運命共同体。
J氏(享年80歳/男/イギリス出身)
G氏とは50年来の友人であり、そのうち20年は恋愛的パートナーでもあった。10年以上前にアルツハイマー型認知症の症状が出始める。数年後、一人暮らしが難しくなった時点でP氏とG氏に引き取られる。症状が悪化し、安全に生活できなくなったタイミングで施設へ移動。今年11月に亡くなる。
J氏はもともとイギリスからの単身移民者であり、血縁の家族や親戚とは疎遠だったようです。上記から分かる通り、J氏はゲイで自らの子どもはいなかったため、私たちが知る限り、彼に法律上の身内はいませんでした。
とは言え、G氏とJ氏は50年来の友人関係にあり家族同然の近しい間柄。P氏もG氏とは30年来の付き合いでもはや運命共同体であるため、自然な流れでJ氏を引き取ることになりました。
私の場合は、P氏と出会ったのが9年前なので、そこから途中参戦した形になります。当初J氏はまだ一人暮らしが出来ていましたが、そこからの進行による変化は著しかったですね。P氏達の家で一緒に住んだ時期もありますし、そうでなかった時も、よくJ氏の食事を作りに行っていました(J氏は決まった時間に決まったメニューでないと食べてくれなかったので)。施設に移動した後も頻繁に訪問していたので、彼が亡くなったとは何だか不思議な感じがします。
※※※
さて、話を本題に戻しましょう。
今回オーストラリアに来て初めて火葬の打合せに参加したわけですが、オーストラリアの火葬事情が少し知れて勉強になりました。
オーストラリアにおける火葬の割合
この打合せに参加する前まで、私には、英語圏では土葬の方が一般的だという思い込みがありました。恐らく、欧米のドラマや映画の影響なのでしょう(敬虔なカソリック系クリスチャンの家庭では土葬が一般的)。
ところが、葬儀会社の方との雑談の中で、オーストラリアでは火葬の割合の方が高いことを知りました。家に帰って調べてみると、確かに、2021年のオーストラリアでの火葬率は69%以上で、大幅に土葬率を上回っていました(The Cremation Society, 2022)。また、Bare Cremation による Funeral Beliefs and Values Study という調査でも、71%の人が将来的に葬式を手配する際は火葬を選ぶと答えたそうです(Bare Cremation, 2021)。
信頼に値するデータが手元にないので確実なことは言えませんが、宗教的・伝統的な方法より、人口的・環境的・経済的状況に配慮した、より合理的で実用的な方法を国民が好むようになってきたようです。
例えば、火葬のメリットとしては下記のようなことが挙げられます。
・費用が安い
・場所を取らず環境にも優しい
・葬式の日程調整がしやすい(土葬だと早めに葬儀をしないといけない)
・火葬後の遺骨・遺灰をどうするか、オプションが豊富
宗教的な信仰が薄れ、死に対する価値観が、特に若い世代を中心に変わってきているというのも、合理性や柔軟性がより求められる所以になっているのかもしれません。お葬式の記事にも書いた通り、葬儀では故人の死を悲しむというより、『故人の人生と旅立ちを祝う』という雰囲気の方が強く感じられます。その目的を達成するためには、様々な意味でアレンジのしやすい火葬の方が便利なのかもしれません。
実際、日本でも規模の小さい葬儀が増加傾向にありますよね。私の実父の葬儀も、家族だけの一日葬にしました(本人の希望でもありました)。家族や近親者が他県にいたためコロナ対策の意味もありましたし、何より母の心身の負担を減らすことが出来たので良かったです。ここで私たちが重要視したのも、伝統や体裁より合理性でした。
遺骨・遺灰の行き先
火葬の打合せ中に確認したことの一つが、火葬後の遺灰をどうするかということでした。打合せの前までは、遺灰は後日引き取る予定でした。墓を作り埋葬する予定は特に無かったため、引き取り以外に方法が無いと思っていたからです。そして受け取った遺灰は、後日正式な形でどこかに散骨し自然に還せればよいと考えていました。
しかし、実際に葬儀会社に赴き書類を読み込んでみると、他に『葬儀会社で処分する』というような内容の項目があったのです(私はチラ見だったので実際に使われていた単語が『処分』だったかどうかは不確かです)。少し曖昧な表現だったので、具体的にどうするのかを聞いてみたところ、Cemetery(墓地公園/霊園)の敷地内にあるガーデンに散骨することができると言うのです。
美しいガーデンの土に還すことができるのであれば、私たちにとっては、それが一番好ましいオプションでした。しかも、オーストラリアにある墓地公園は明るく素敵なところが多いです。よって、火葬後の遺灰は引取りではなく、ガーデンへの散骨に変更しました。後でG氏に報告すると、彼も喜んでいました。
埋葬や散骨以外にも、遺灰を家で保管し続ける人もいるようですし、少数派ではあると思いますが、ジュエリーに加工したり、タトゥーや絵画のインクに入れたりする人もいるようです。いずれの場合も、故人といつも一緒にいたいという気持ちからくるチョイスなのかもしれませんね。
6週間のパース滞在中に火葬の打合せを経験するとは予想外の展開でしたが、オーストラリアの火葬事情が知れて勉強になりました。
参考文献
The Cremation Society. (2022). International Statistics 2021. https://www.cremation.org.uk
Bare Cremation. (2021). Australian Funeral Industry State of the Nation 2021: A nationally representative report on end-of-life and funeral planning.