【読書ノート】『流浪の月』
『流浪の月』
凪良ゆう著
ある日の夕方、更紗は伯母の家での生活に耐え切れず、公園のベンチで雨に打たれていた。そこに、19歳の文が現れて「うちに来る?」と声をかけた。
更紗と文はお互いに影響を与えながら、2カ月間を文の家で過ごす。更紗と文は自由な時間を満喫していたが、周囲はこの出来事を「誘拐事件」として騒ぎ立てた。
15年後、更紗と文は「被害女児」と「加害者」というレッテルを背負って再会する。
一言で言うと、不条理な扱いを受けて来た二人が運命的に出会ってしまい、精神的に繋がってしまうという物語。そこには、肉体的な関係はない。
恋愛関係ではないから、少し違うのだけど、江國香織さんの『桃子』を思い出した。
キーワードを挙げてみる。
①「流浪の月」と言う言葉にはどんな意味があるのか?
1. 運命の不確実性:「流浪の月」は、人生や存在の不確実性を象徴する言葉として解釈される。月は常に移り変わり、一定の場所に固定されていないため、運命や人生も予測不可能で流動的であることを表現している。
2. 孤独と孤立:「流浪の月」は、人間の孤独や孤立を表現する言葉としても捉えられる。月は夜空で一人きりで漂っているように見えるが、実際には他の天体や存在とのつながりがある。同様に、人間関係や社会的なつながりが限られている場合でも、内面的なつながりや共感を通じて他者と関わることができるということ。
②クラインフェルター症候群(文の病)
クラインフェルター症候群は、男性に生じる性染色体の異常疾患。
1. 外見に現れる症状
- クラインフェルター症候群の人は通常、身長が高く、手足が長い傾向がある。
- 精巣が正常に発達せず、男性ホルモン(テストステロン)の産生が不十分。
- 乳房が少し膨らむことがある。
2. 発育に現れる症状
- 言語能力の遅延がある場合がある。
- 自己表現が苦手で、社会的な相互作用に問題が出ることがある。
キーワードから見えてくること。
親に捨てられて、親戚の家で虐待を受けていた更紗と病によって家族に見放されていた文は共に、こころの繋がりに飢えていた。そこに年齢差や性別は関係なかった。
同性であれば親友、異性であれば、普通は恋人なのだと思われるものだけど、大学生の男子と小学生の女子という立場は、悲しいことに、真実を知らない世間が許さない。事実とされてしまったことは、女児誘拐の加害者・文とその被害者・更紗というレッテル。
物語の主題は何か?
「事実と真実は違う」ということ。
虐待を受けていたり、病いを抱えていたり、いわゆる"普通"に分類されない人達は、生きにくい社会になっているということ。
広い意味で、ダイバーシティを取り扱った走り的な作品なのかもしれない。
二人の親が共に、酷くて、そもそも、親が悪いとかも思ったのだけどね。