【読書ノート】『クロイツェル・ソナタ』
『クロイツェル・ソナタ』
トルストイ著
一言で言えば、ある名士が、結婚して、妻が、浮気したので、嫉妬に狂って、妻を殺してしまったという話。
人間には、性的な欲求が、非常に強く働いている。結婚というのは、合法的な売春だという世界観が、示される。男性は、女性を性的な対象と見るもので、女性は、そんな男性の欲望を逆手に、男性を支配する。
冒頭で、
「……しかし、わたしは言っておく。みだらな思いで他人の妻を見る者はだれでも、既に心の中でその女を犯したのである。……」(『マタイによる福音書』五章二十八節)
キリスト教では、「姦淫」について、強く禁止しているような教えがある。トルストイ自身、性的な欲求というものに悩まされた人生だったようだ。
男女が惹かれ合う大きな要素は、種の保存という側面からも、性的な欲求にあることは、否定しようがないことなのだとは、思うのだけどね。
今の社会は、基本的に、一夫一妻制が、とられているけど、人間の進化論的には、優れた男性一人が、複数の女性を養う一夫多妻制の方が、もしかしたら、合理的なのだけど、政治的に、民衆を治めるために、一夫一婦制を原則としているような話も聞く。
究極的には多夫多妻で、子供を地域全体で育てるような民族もいるらしい。
今後、男女平等が、実現されてきた時、結婚制度は、維持できなくなるのではないか?
本書の主題は、何か?
人間の肉体的な欲望(特に性的な欲求)は、ひとを破滅に導くということになるのだろう。
名作『アンナ・カレーニナ』は、不倫と離婚が、認められない時代の話で、激しく、美しい物語だったけど、究極的には、肉体的な欲望の暴走で、破滅したということだった。
話は変わるが、
『クロイツェル・ソナタ』は、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタの最高傑作と言われている。
トルストイは、ベートーヴェンのクロイツェル・ソナタから本書を書いたと言われている。
クロイツェル・ソナタ以前のソナタは、ピアノが主で、ヴァイオリンは、補助的だったのだけど。クロイツェル・ソナタは、ヴァイオリンとピアノが、対等な立場で、お互い掛け合いながら曲が進んでいく象徴的な楽曲だという。
これが、男女の関係性を象徴させているということなのだろうなあとか、思った。