【読書ノート】『シャイロックの子供たち』
『シャイロックの子供たち』
池井戸潤著
銀行員が遭遇する様々な問題を集めた連作短編集なのだけど、すべての物語は関連していて、映画の内容を深掘りしたものになっている。映画のストーリーと原作はだいぶ内容は異なっているけどね。
東京第一銀行・長原支店には、多彩な行員たちが奉職している。出世の道を外れた西木課長代理や、パワハラを厭わぬ副支店長・古川、真面目な女性行員・北川、そして成績トップのエース・滝野など。
ある日、100万円の現金紛失事件が発生する。女性行員の北川の鞄から、当日の日付の入った札束の巻封が発見され、彼女に対する疑惑が浮上。
その後、些細な疑問から事件の裏に隠された驚くべき「不正行為」が明らかになる。西木は事件の真相を追い、ある日、失踪する。
①"シャイロック"とは?
シェークスピアの『ヴェニスの商人』に登場する金貸し。
シャイロックはユダヤ人であり、ヴェニスのキリスト教徒社会の中で差別と迫害に直面していた。この差別によって彼は孤立し、他者との関係に疑念や不信を抱き、最終的には破滅していく。
②『シャイロックの子供たち』とは?
"子供たち"という言葉は、「息子」というよりもむしろ「予備軍」的なニュアンスなのだと思う。銀行員という金貸し業の人間たちが自身の業績を追い求めるために奮闘しながら、"シャイロック"になって行くために、日々邁進しているということなのだろうと思った。
シャイロック予備軍は金や欲に目が眩んで、また、やむを得ない事情で犯罪に手を染めて、いつか破滅してしまう危険と常に隣合わせにいるということ。
西木雅博は一線を越えてしまったのだと推測されるが、恐らく、シャイロックそのものになってしまったと言えるのかもしれない。
人間の欲望と道徳、他者との関係、正義と復讐の問題を考えさせられる。
物語の主題は何か?
古代ローマの哲学者・セネカの言葉を思い出した。
1. 「富はしばしば欲望の奴隷となる。」
お金への執着が自由や幸福を奪う可能性があるということ。
2. 「真の豊かさは、自己制御と満足した欲望によって生み出される。」
欲望を抑えて、やるべきことに真摯に向き合うことで、本当の豊かさを実現できるということ。
3. 「お金は手段であり目的ではない。」
お金を使うことで人々が幸福や喜びを追求することができると認識していますが、お金自体が幸福をもたらすわけではないということ。
テンポのよい物語で、爽快に物語は進むのだけど、なかなか、考えさせられる結論だった。