第7話 取寄の男、渡辺透 【渡辺透クロニクル】
渡辺は取り寄せていた。なにをか。戸籍謄本である。とある事情により戸籍謄本を某所に提出せねばならないことになり、600キロ離れた本籍地である大阪府の某役所に郵送で取り寄せたのである。
渡辺はあと2ヶ月で36歳になろうかという現在まで、一度として己の戸籍謄本などは見たことがなかった。
見る必要も理由もなかったというだけであるが、さて、今目の前で開いてみるに、渡辺一家の情報が事細かく書いていることに目を見張る。
戸籍謄本を見るまで知らなかったことがいくつもあるわけである。