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さようなら、外脛骨

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左有痛性外脛骨の手術をし、コロナ禍の中1ヶ月入院しました。 それを小説にしました。
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2021年8月の記事一覧

読まなくていい序文 さようなら、外脛骨

 序文は読む必要性はないが、書いておく必要性はあるので残しておく。

 さくらももこの「なんでも経験してやろう」精神を見習い、手術も経験しておいて損はない。手術中の状況を楽しもう。ということで全身麻酔ではなく頚椎麻酔を選ぶ予定だった。しかし、人生初の手術が不安で不安で不安で仕方なく、整形外科医の「全身麻酔でいいですね」という問いに「はい」と返事をしてしまった。つまり僕は手術中全身麻酔で熟睡していた

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第1話 ファースト・インパクト さようなら、外脛骨

 初めて痛くなった日は定かではない。5年以上10年以下の間だろう。精神病院で電気けいれん療法という全身麻酔をして頭に電気を流す治療をしたせいで過去の記憶がほとんどのこっていないからだ。その顛末は恋する閉鎖病棟を参照されたい。

 が、初めての痛みは記憶している。深夜トイレに行こうとして左足を床について力を入れると、脳みそにショットガンをぶっ放されたような痛みが走った。もちろん僕はカート・コバーンで

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第2話 手術前 さようなら、外脛骨

第2話 手術前 さようなら、外脛骨

 整形外科に通わなくなって三年、定期的に激痛は走るが立ち上がれないほどではない。週に三回軽作業をしに施設に通い始めて三年、通う場所ができて運動して筋肉がついたから激痛にはならないのだろうか。それともインソールとダイエットのおかげだろうかと思っていると久しぶりにアイスピックの刑がやってきた。運良く金曜日だったので翌日土曜日の午前中に大学病院へ行った。一歩一歩歩くたびに痛みが走り脂汗が流れる。
 痛風

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第3話 手術前日 2021年7月28日 さようなら、外脛骨

第3話 手術前日 2021年7月28日 さようなら、外脛骨

 朝、荷物を持って病院へ。窓には上下にねじ式の鍵をつけてカーテンを閉め、PCはラジオを録音するため電源はオンのまま。予定より早く着いたためコーヒーを飲んで時間を潰す。
 入院受付へ行く。これから入院予定の人が数人。皆キャリーケースを持っている。エレベーターに乗り入院病棟へ行く。
 中央にスタッフルームとシャワールーム大小にトイレがあり、それを中心にして廊下が一周している。廊下に病棟が並んでいる。イ

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第4話 手術当日 2021年7月29日 さようなら、外脛骨

第4話 手術当日 2021年7月29日 さようなら、外脛骨

 6時起床。喉がからから。担当看護師の前で喘息の吸入をする。12時手術とのこと。起きていると喉が乾き腹も減るので寝ようと思うが緊張しているせいか10分に一度目が覚める。
 爺さんが「引き出しに入れてた名刺入れがなくなった。家族に連絡が取れない」と騒いでいる。相手する看護師も大変そうだ。フットポンプというものを右足につける。空気を入れると右足がぎちぎちになる。血栓ができるのを防ぐためだという。
 朝

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第5話 手術後 2021年7月29日 さようなら、外脛骨

第5話 手術後 2021年7月29日 さようなら、外脛骨

 人工呼吸器をつけている。視界がぼやけている。看護師が二人話をしている。「聞こえますか」頷く。「自動で痛み止めを流しています。痛みが強くなったら左手で持ってるボタンを押すと痛み止めが出ます」頷く。
「……はどうなってるの?」
「……さんが……って言ってました」
「自分で確認しなきゃ駄目じゃない。……」

 足が切り開かれ骨が抜き取られたわりには痛みはとても少ない。ほとんどないといってもいいだろう。

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第6話 手術後2 2021年7月30日 さようなら、外脛骨

第6話 手術後2 2021年7月30日 さようなら、外脛骨

 痛み止めが再開されたといっても痛みが0になるわけではない。10段階で8前後が続く。我慢できるかできないかで言えば我慢できない。入院用に電子書籍や本をたくさん用意してきたがそんなもの楽しめる余裕はない。スマホで現状を記録するだけで精一杯だ。朝食がやってきたが味わう余裕もない。深夜の痛みよりはましだと自分に言い聞かせる。何度言い聞かせたところで痛みが収まるわけではない。歯を食いしばって耐える。この間

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