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日常小説

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#私小説

僕の好きだった女の子をあっさり捨てやがって

定刻を少し過ぎて、チャイムが鳴った。18時になると、うちの会社はチャイムが鳴る。お洒落な音でもなく、かと言って重々しい音でもなく、まさに学校の放課後を告げる音とまるっきり同じものだ。僕は業務を切り上げて帰り仕度をする。昔から学校でも授業が終わり、先生の他愛もない世間話が終わるとそそくさと帰るようなタイプだったから、大人になった今でもこの気質は変わっていない。

「おう。帰りか?」

かと

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50円のコーラを1000円で売るには並大抵の努力じゃ上手くいかないんです。

「君が思うおしゃれの定義って何だい?」

揺れる電車の中で、大きな窓を背にして座っている。休日のお昼時の渋谷行車両はわりと空いているから、いつもこの時間から待ち合わせることが多い。私たちは、休日になると最寄駅で指定時刻に落ち合いシティライフを楽しむ。シティはとても面白いもので溢れている。昼と夜とで街行く人の雰囲気が変わったり、価値観がそれぞれ全く違っていたり、遊び場はほとんどがチェーン店ではあ

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つるつるネーム

DQNネームの基準

「去年結婚した友達に子供が産まれたんだ」
「早いですねー。おめでとうございます」

大学の講義の帰り道、校門前で待ち合わせてから一緒に帰る。先輩とは最寄駅が一緒で、学部も一緒だから、いつも何かと行動をともにする。同じ講義なことも多く、最終の講義も同じだと自然と一緒に帰ることになる。私は別に先輩と付き合いたいとは思ってないし、そんな雰囲気もでてないんだけど、先輩はいつも

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未来の分岐が見えてる話

「もし人生の分岐点が実際に見えたらどうする?」

突然の大雨に見舞われ、近くのクリーニング屋の屋根の下で一時雨宿りをする。小柄な僕は小さい屋根の下でも余裕を持って身体が収まっているのだけれど、一方の大柄の先輩はうまく入り込めていない。そのせいか、彼の右肩は濡れに濡れてびしょびしょになっている。でもそんなことは少しも気にしないような態度で(もしくは気付いていないのか)雨が止むのを待ちながら話しか

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魔法使いとは付き合えなかった

「RPGの職業だったら何になりたい?」

何名様ですか、と店員に聞かれ、ピースサインで答える。案内されて向かったところは薄暗い電灯下の席。座ってから数分して店員がおしぼりとドリンクメニューを持ってきたので、生ビールとハイボールを1つずつ頼んだ。ものの1分も掛らずに卓に運ばれてきたジョッキは触れると一瞬手を引っ込めるほど冷んやりしていて、寒い時期にとんでもないありがた迷惑を味わう。

「いき

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そういうところなんですよ先輩

「お前って仕事できないけど周りに好かれてるよな」

人差し指で、気怠そうにぼちぼちとキーボードを打ちながら、痩せ気味の中年男性がボヤく。彼のメガネは右に少し傾いていて、いつも親指の付け根あたりで修正をかける。でも、直しても直しても直らないのが見ていてもどかしい。

「逆に先輩は仕事できるのに何かアレですよね」

残っている仕事を少しずつ終わらせる。資料を「最近のもの」「前のもの」で分類

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