朝比奈陽

物書き屋さん。シナリオライター。

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後ろに立っていた爆乳戦艦

時計を見ると、21時になっている。うちの会社の終業時刻は夜の18時だから、3時間弱残業していることになる。残業代が22時以降からしか出ないから、ここで帰宅するとサービス残業となる。この時間になると残業代が支給される時間までダラダラとしていることが多い。 「フン〜フンフン〜フフンフン〜♪」 この部署はわりと朝から夕方まで仕事がなく暇なことが多いのだが、夜になると他部署の仕事が雪崩のように舞い込んでくる。だから、ここでは特定の仕事をしている人は夕方から定刻まで猛スピー

    • 垣根を超えたLOVE

      「一人暮らししたいんですよぉ」 金曜日の仕事終わりには決まって向かう場所がある。会社の同じ部署で仲良くしている財務部のジョンさんの家だ。ジョンと欧米人っぽいニックネームで呼んでいるけど、彼はなんてこともない純日本人。本当の苗字は『純平』なんだけど、『ジュン』だとつまらないからジョンにしようと課長の心遣いからこうなった。周囲の人は、正直ジュンでもジョンでも変わらないからどっちでもいいんだけど、課長の言うことだからってジョンで通している。呼ばれている当の本人は呼ばれるたびに

      • 僕の好きだった女の子をあっさり捨てやがって

        定刻を少し過ぎて、チャイムが鳴った。18時になると、うちの会社はチャイムが鳴る。お洒落な音でもなく、かと言って重々しい音でもなく、まさに学校の放課後を告げる音とまるっきり同じものだ。僕は業務を切り上げて帰り仕度をする。昔から学校でも授業が終わり、先生の他愛もない世間話が終わるとそそくさと帰るようなタイプだったから、大人になった今でもこの気質は変わっていない。 「おう。帰りか?」 かといって他人を寄せ付けない態度は取っていない。それにも関わらず、会社では仲良しと呼

        • 50円のコーラを1000円で売るには並大抵の努力じゃ上手くいかないんです。

          「君が思うおしゃれの定義って何だい?」 揺れる電車の中で、大きな窓を背にして座っている。休日のお昼時の渋谷行車両はわりと空いているから、いつもこの時間から待ち合わせることが多い。私たちは、休日になると最寄駅で指定時刻に落ち合いシティライフを楽しむ。シティはとても面白いもので溢れている。昼と夜とで街行く人の雰囲気が変わったり、価値観がそれぞれ全く違っていたり、遊び場はほとんどがチェーン店ではあるものの、至る所まで探せば面白い場所は溢れている。今日は先輩がとても活きがってい

        後ろに立っていた爆乳戦艦

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        • 日常小説
          12本

        記事

          つるつるネーム

          DQNネームの基準 「去年結婚した友達に子供が産まれたんだ」 「早いですねー。おめでとうございます」 大学の講義の帰り道、校門前で待ち合わせてから一緒に帰る。先輩とは最寄駅が一緒で、学部も一緒だから、いつも何かと行動をともにする。同じ講義なことも多く、最終の講義も同じだと自然と一緒に帰ることになる。私は別に先輩と付き合いたいとは思ってないし、そんな雰囲気もでてないんだけど、先輩はいつも無邪気に話しかけてくる。 「そこで最近よく騒がれているキラキラネームとか、

          つるつるネーム

          未来の分岐が見えてる話

          「もし人生の分岐点が実際に見えたらどうする?」 突然の大雨に見舞われ、近くのクリーニング屋の屋根の下で一時雨宿りをする。小柄な僕は小さい屋根の下でも余裕を持って身体が収まっているのだけれど、一方の大柄の先輩はうまく入り込めていない。そのせいか、彼の右肩は濡れに濡れてびしょびしょになっている。でもそんなことは少しも気にしないような態度で(もしくは気付いていないのか)雨が止むのを待ちながら話しかけてきた。 「どういうことですか」 先輩はとてもトンマでマイペースな

          未来の分岐が見えてる話

          魔法使いとは付き合えなかった

          「RPGの職業だったら何になりたい?」 何名様ですか、と店員に聞かれ、ピースサインで答える。案内されて向かったところは薄暗い電灯下の席。座ってから数分して店員がおしぼりとドリンクメニューを持ってきたので、生ビールとハイボールを1つずつ頼んだ。ものの1分も掛らずに卓に運ばれてきたジョッキは触れると一瞬手を引っ込めるほど冷んやりしていて、寒い時期にとんでもないありがた迷惑を味わう。 「いきなり何ですか」 「君がどんな職業を選ぶのか気になってね」 店員は生ビ

          魔法使いとは付き合えなかった

          そういうところなんですよ先輩

          「お前って仕事できないけど周りに好かれてるよな」 人差し指で、気怠そうにぼちぼちとキーボードを打ちながら、痩せ気味の中年男性がボヤく。彼のメガネは右に少し傾いていて、いつも親指の付け根あたりで修正をかける。でも、直しても直しても直らないのが見ていてもどかしい。 「逆に先輩は仕事できるのに何かアレですよね」 残っている仕事を少しずつ終わらせる。資料を「最近のもの」「前のもの」で分類しながら先輩の話をうんうんと可愛い後輩を演じながら聞く。後輩である彼はスマホを振

          そういうところなんですよ先輩

          受け継いだ感情を新しい家族に。

          《お前なんてもうしらない》 【激情】 1 はげしく怒ること。また、その怒り 冬至、凍てつく寒さが心を芯まで冷やす。近場の公園では色とりどりの帽子を被った子どもたちが走り回っている。まるで、晴れた日に舞降る流星のよう。 《どうしてそんなことするんだ?そんな子に育てた覚えはない》 【哀情】 1 心が痛んで泣けてくるような気持ち 2 嘆いても嘆ききれぬ思い 公園の近くには川が流れている。長く、果てしなく続いてるように感じさせる。遠い存在になった人

          受け継いだ感情を新しい家族に。

          先輩、頑張りすぎです(女性編)

          「私の大学時代の先輩の話なんだけど」 「いつもの英雄のD子さんですか?」 仕事も終わり、これからアフター6というOLの少ない夜の自由時間。外へ飛び出す前にいつもこの化粧室に集まる。どのオフィスも同じだと思うが、男性と女性で化粧室は別けられている。男性禁制の空間は、女性が本性を現す場所と化す。そこはまるで、満月の夜に映し出される狼の如く、LEDライトで照らし出されたモンスターウーマンとでもいうべきか。 「そう・・・数々の伝説(悪い意味でも)残してきた先輩」 「なんですか?」

          先輩、頑張りすぎです(女性編)

          「もし超能力を1つだけ与えられるとしたら君は何がほしい?」

          「もし超能力を1つだけ与えられるとしたら君は何がほしい?」 週中の水曜日、深夜2時。うちのビルはその界隈でも言わずと知れた眠らないビル。どこよりも遅くまで明かりが点いている。もしかしたら、このビルが建ってから電気が消えてたことはないんじゃないかという噂もある。 「起きた瞬間フェイスケア、決めてあったメイクになる力が欲しいです」 「・・・・・・ずいぶんと現実的というか生々しいスキルだね」 ビルは7階建、うちらは5階のフロアに居を構えてる。1階は管理人の婆やんのお部屋と、趣

          「もし超能力を1つだけ与えられるとしたら君は何がほしい?」

          ねぇ?先輩。偏見なんてありませんよね

          「はっと思ったんだけどさ」 東京では今年で初めての雪。初めてにして、最大級の大雪の日だった。首都圏のすべての交通機関が乱れ、なかには見慣れないホームで長時間待つ人もいたという。 「はっと?」 「いや、ふっとだね」 「足ですか?」 家を出る前には天気予報をチェックするのが習慣になっている。雨が降って傘がないと救いようなくテンションが下がるから。綺麗好きとしては大事なコートに少量の雨水が掛かっただけでも声に出せないほど荒れ狂うのだ。 「いや、足じゃなくてね

          ねぇ?先輩。偏見なんてありませんよね