江戸時代の料理書にみる「玉子ふわふわ」について
たまごふわふわ、文字通りたまごがフワフワしている料理らしいことはネーミングからも伺い知れる。江戸時代、寛永二十年(1643)の料理書である『料理物語』を眺めているときにその存在を知った。
今回はいくつか江戸時代の料理書にみえるレシピを確認し、料理の素人ながら再現に挑んでみたい。
☑江戸時代の料理書にみる「玉子ふわふわ」
1)『料理物語』に見る玉子ふわふわ
『料理物語』は江戸時代の代表的な料理書で、食材や調理法ごとに全20章から構成される。この「第十六章 さかな(肴)の部」に玉子ふわふわは記載されている。
そこには
と簡潔に記載されており、「たまごを割って、玉子の容量の3分の1程度の出汁とたまり(味噌の上澄み液)と煎酒(梅干と鰹節と酒を煮詰めたもの)を入れて、よく蒸かす。固くなってしまってはダメ」(著者意訳)という内容である。想像するに茶碗蒸しのようなもの出来上がるのだろうか。
2)『料理塩梅集』にみる玉子ふわふわ
『料理塩梅集』は寛文八年(1668)に書かれたものである。オンラインで資料は確認出来るが画像の利用が出来ないので国書データベースから確認して欲しい。
とあり料理塩梅集では出汁をごくすくなく、醤油と酒を入れ、かき混ぜて煮る料理とある。いり玉子のようなものが出来上がるのだろうか。
3)『伝演味玄集』にみるふわふわ卵子
次に延享二年(1745)に書かれた『伝演味玄集』を見てみたい。
ここでは、たまごをよく溶いて出汁に入れて塩加減して煮立てる料理として紹介されている。また塩は二度入れることは出来ないのでしっかり計画的に入れること、酒や醤油は入れない方が良いことも付記されている。
また料理物語では出汁は卵の3分の1程度としていたが、ここでは卵の3倍使いなさいと書いてある。とき卵のスープのようなものが出来上がるのだろうか。
4)江戸時代の料理書によると玉子ふわふわの解釈はバラバラ
上記、3書を取り上げてみたが共通項は卵を使うこと、出汁を使うこと、程度で一定の法則性はなさそうだ。またかき混ぜる、かき混ぜないといった違いや出汁の量が卵11個に対し2杯、卵の全量の3分の1、卵の全量の3倍と違いも大きい。
☑作ってみた
1)失敗編
解釈はバラバラ、どれを基準に作るか、何か参考になるものは無いかと書を取る。
この本によると
とあり『伝演味玄集』のように出汁でよく混ぜた玉子を煮るレシピが紹介されていた。
そうめんのつゆにしたら美味しそうなものが出来上がったが、ふわふわといった感じでは無いものが出来上がった。本に掲載されている写真とも全然違う。今、思い返せば箸で混ぜたつもりでいたが全然混ぜが足りなかった。
2)それなりの成功編
ネットで探してみたら農林水産省のHPが出てきました。静岡県袋井市の郷土料理として紹介されていますがいわれは最近のようです。レシピも載っていたのでこちらを参考にして作ってみました。
材料は玉子2個、かつお出汁の素、塩、薄口醤油、みりん、胡椒、水400ccです。
出汁を作ります。かつお出汁の素をメーカー指定どおりの量、塩、薄口醤油、みりんを混ぜます。そのうち40ccを玉子用に取り分けます。
たまご2個を割り、先程作った出汁40ccとみりん少々をあわせ入れます。
ハンドミキサーでクリーム状になるまで混ぜます。数分混ぜます。しっかり混ぜます。文明の利器を使います。
しっかり混ぜました。卵液の状態からして先程と違います。ふわふわオーラが漂っています。
今度は小さめの土鍋を使います。ダイソーで500円くらいで買ったものです。
出汁が煮立ったら火を消して卵液を一気に投入します。
速やかに蓋をして3分ほど待ちます。吹きこぼれて大惨事になっていますがそのまま待ちます。
完成しました。熱々のうちにいただきます。
ふわふわで軽いスフレのような茶碗蒸しのような食感です。これぞ玉子ふわふわといった納得のいく出来です。
おわりに
ふわふわ、をするには玉子をメレンゲ状にする必要があり、ハンドミキサーやガスコンロといったものが無かった時代には大変だったと思います。
それでもこの料理を思いついた江戸時代の料理人の凄さを学びました。
表紙絵
『素人庖丁』日本古典籍データセット(国文研所蔵)CODH配信
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