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休まぬことの愚かさ〜『休むヒント。』

◆群像編集部編『休むヒント。』
出版社:講談社
発売時期:2024年4月

私のような怠け者からすると、何とも不思議な書名です。休むのになんでヒントがいるのでしょう。現代ニッポンでは休むことがそれほどに困難になっているのでしょうか。

というわけで、私が本書を手に取ったのは、「休むヒント」をもらおうなどという切実な必要からではなく、「休むヒント」というお題で各界の論客たちがどのような文章芸を見せてくれるかという関心からにほかなりません。

よく知らない書き手が多く居並ぶなか、ページを繰ってみると、やはりワーカホリック的な生真面目な論稿が多くて私には退屈というほかなかったのですが、そのなかでは、蓮實重彦センセイの一文は冒頭から痛快かつ貫禄充分。

「休む」ことと「休まぬ」こととの決定的な違いは、その後者が、いま自分は何かをしているという思いこみを「休まぬ」主体にもたらしがちなことにある。いうまでもなく、それは途方もない錯覚にすぎない。実際、ほとんどの場合、「休まぬ」主体は、自分はいま忙しくしているというただそれだけの理由で、何かをしているものと思いこんでしまう。だが、忙しいことがその主体にいかなる積極的な行動ももたらしはせぬことなど、誰の目にも明らかなはずである。であるが故に、「休まぬ」ことは必然的に愚かなことでしかない。(p144)

その愚かさを回避するために、たとえば諸々の会議をさぼることを提唱することになるのですが、在籍していた最高学府における会議のくだらなさを具体的に例示するくだりなど、なかなかに興味深い。かくして会議をさぼることに尽力する男女がいま少し増えないかぎり「この国の未来は途方もなく危ういといわざるをえない」と仰々しく締めくくられるのでした。

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