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ニューアカの“バイブル”を文庫で読む!〜『構造と力』

◆浅田彰著『構造と力 記号論を超えて』
出版社:中央公論新社
発売時期:2023年12月文庫版

1980年代に出版界を沸かせた「ニュー・アカデミズム」ブームを牽引した一人である浅田彰のデビュー作が40年ぶりに文庫化されました。初版刊行直後に読んだ時にはちんぷんかんぷんでしたが、今回はスラスラとまではいかないまでも、大いに楽しんで読みとおすことができました。私も少しは賢くなったのでしょうか。

当時の思想潮流をポストモダンと総称し、それを相対主義の行き過ぎとみなして斥け、新しい実在論や実存主義に向かう──というのが昨今の思想・哲学界のトレンドのようです。が、本書を読めばそれがいかに単純な言動であるかよくわかります。

なるほど本書の冒頭では「一度すべてを相対化してみる方がずっといい」との言明がなされてはいます。けれどもそのすぐ後に浅田は次のようにのべていることを忘れてはなりません。

……自ら「濁れる世」の只中をうろつき、危険に身をさらしつつ、しかも批判的な姿勢を崩さぬことである。対象と深くかかわり全面的に没入すると同時に、対象を容赦なく突き放し切って捨てること。同化と異化のこの鋭い緊張こそ、真に知と呼ぶに値するすぐれてクリティカルな体験の境位であることは、いまさら言うまでもない。簡単に言ってしまえば、シラケつつノリ、ノリつつシラケること、これである。(p19)

これは単純な相対主義とは似て非なるものです。「対象と深くかかわり全面的に没入する」ことじたいを否定してはいないのですから。

そのようなアクロバティックな態度を保持して展開するマルクスをベースにした議論では、柄谷行人『力と交換様式』の問題意識を先取りしているところもあるように感じられ、とりわけ興味深く読みました。そういう意味では本書の内容はけして古びていないどころか、依然として新しい(ニューアカデミズム)とさえ言えます。2023年に文庫化されたことはやはり意義深いというべきでしょう。

イロニーではなくユーモアを重視する本書の解説を、同じようにアイロニーからユーモアへ折り返すことを説いた『勉強の哲学』の著者が書いているのも一興です。


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