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読書は孤独ではないことを教えてくれる〜『それを読むたび思い出す』

◆三宅香帆著『それを読むたび思い出す』
出版社:青土社
発売時期:2022年2月

人気書評家による書き下ろしエッセイ集。「読むことは思い出すことに似ている」。冒頭の言葉が象徴的です。まったく未知のものに触れたというよりも「大切なことを思い出したような気分になる」。

誰かは忘れましたが、西洋の哲学者も同じようなことを書いていたと記憶します。哲学とは人びとに大切なことを思い出させるのが使命なんだと。少し意味はズレるけれど「歴史とは上手に思い出すこと」という小林秀雄の名セリフもありました。なるほど、いろいろなことを思い出します。

本書は「地元」「京都」「読書」という三つの章立てですが、全体をとおして本を読むことにまつわる記憶が底流をつらぬいています。ただのほほんと本を読んでいた時代の記憶。それはそうじて幸福な時間としての思い出です。

末尾で孤独について書いています。私は、誰かの孤独にしか興味がない、と。「私が言葉を読んだり書いたりするのが好きなのは、それが、私にとって孤独ではないことを教えてくれるただひとつの方法だったからだ」といいます。私も昔から本ばかり読んできたけれど、たしかにそんな思いで本を読んできたのかもしれないと思ったのでした。

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