反緊縮財政でお金をまわす〜『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』
◆ブレイディみかこ、松尾匡、北田暁大著『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう レフト3.0の政治経済学』
出版社:亜紀書房
発売時期:2018年5月
英国在住の保育士&ライターのブレイディみかこ、経済学者・松尾匡、社会学者・北田暁大の鼎談集。日本の左派言論人や政党が経済問題にあまり関心を示さないことを批判し、積極的な財政出動や金融緩和を訴えるという内容です。
松尾の理論経済学者としての発言にはアカデミックな味わいがあり、その限りで本書を読む意義はあると感じました。経済成長を〈長期の成長〉と〈短期の成長〉に区別したうえで後者の重要性を強調するのは毎度おなじみの議論ではあるけれど、思考の整理には役立つでしょう。
失業者がいる状態では、きちんとGDPギャップを埋める経済成長(=短期の成長)をして、失業を解消し完全雇用の状態にまでもっていくことは、政策的に必要なことだと松尾は述べています。
もっとも、そうした意味での〈短期の成長〉なら、本書で経済成長否定論者として名指しでやり玉にあげられている上野千鶴子や内田樹だってやみくもに否定はしないのではないでしょうか。
〈短期の成長〉を促すために松尾が打ち出している具体的な財政・金融政策にしても反緊縮を基軸としたケインズ主義的政策の現代版というもので、少なからぬ左派言論人が言ってきたこととさして違いはありません。
書名からも察せられるように本書では三者とも執拗に現在の左派論壇や野党への批判を展開していますが、左派を貶すのは昔から左派のお決まりのしぐさ、自分たちだけが物事の本質を理解している的なセールストークもあまりしつこいと逆効果のような気がします。