句集ひとり

大作家が自費出版で出した俳句の本〜『句集ひとり』

◆瀬戸内寂聴著『句集ひとり』
出版社:深夜叢書社
発売時期:2017年5月

作家の瀬戸内寂聴が95歳にして初めて出した句集です。「死んだ時、ごく親しい人だけに見てもらえればいい」ということで自費出版されたものらしいですが、めでたく第6回星野立子賞を受賞しました。

巻末には俳句に関連した人々との交遊録的なエッセイが収められていて、大作家と俳句の関係にまつわる楽屋話をも知ることができる構成になっています。

ちなみに句集の標題は一遍上人の言葉を意識したものです。
「生ぜしもひとりなり/死するもひとりなり/されば人とともに住すれども/ひとりなり/添いはつべき人/なきゆえなり」

 生ぜしも死するもひとり柚子湯かな
 はるさめかなみだかあてなにじみをり
 子を捨てしわれに母の日喪のごとく
 寂庵に誰のひとすぢ木の葉髪
 生かされて今あふ幸や石蕗の花

自由に生きてきたひとりの人間の矜持や孤独が、小さな文字の宇宙のなかに畳み込まれている。そこから聞こえてくるのは、ことばを発せずにはいられない人間の歌い語る声なのかもしれないし、生きてある者の幽き鼓動なのかもしれません。

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