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「謙虚な叡智」としての現実主義!?〜『国際政治』
◆高坂正堯著『国際政治 恐怖と希望 改版』
出版社:中央公論新社
発売時期:2017年10月(改版)
高坂正堯といえば日曜朝のテレビ番組でコメンテーターとして出演していた時の姿が強く印象に残っています。京都弁まじりの明朗な語り口には独特の味がありました。
本書は初版が1966年の刊行です。50年の年月に耐えて今日なお現役本として読者のもとに供せられていることは、多くの書籍が賞味期限付きで読み捨てられていく現状に照らしてみれば素晴らしいことに違いありません。「名著刷新!」のオビが目を引きます。しかしながら、通読しての感想はひと言でいえば「退屈」。
権力政治に関する認識などは明らかに本書が執筆された時代の制約、すなわち冷戦構造に制約されたものという印象を否めません。意地悪くいえば状況解説の範囲を出るものではないように思われます。
たとえば、高坂は国際社会の混乱の原因を邪悪な勢力の存在によるものと考えず、世界の権力政治の構造そのものに内在するジレンマによるものと考えます。そこまでは良い。
しかし、そこから平和を実現するためには「対立の原因そのものを除去しようとすることを断念」し、「それよりは対立の現象を力の闘争として、あえてきわめて皮相的に捉えて、それに対処していくほうが賢明」という対症療法的なやり方に向かうのは何とも物足りない気がします。そうした「現実主義」を「謙虚な叡智」と呼ぶことにももちろん賛同できません。上述したように当時の冷戦構造を前提した限定的な考え方でしかないように思われます。
むろんそのことをもって本書の価値を貶めるのはフェアではないでしょう。ごく少数の賢人をのぞけば誰もが時代のパラダイムのなかで思考するほかないのですから。その意味では現代政治思想史の観点からすると興味深い本といえるかもしれません。