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そして映画はつづく

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ZAQブログ『コラムニスト宣言』に発表した映画レビュー記事がベース。ZAQ-BLOGariのサービス停止に伴い、記事に加筆修正をほどこしたうえでこちらに移行しました。DVD化され…
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#コンテンツ会議

伝説は世紀を跨いで映画になった〜『ボヘミアン・ラプソディ』

遅ればせながら『ボヘミアン・ラプソディ』。 冒頭、ライヴ・エイドのステージに向かうフレディの姿が描写されます。そのシークエンスはラストで反復されますが、同じカットではありません。変化をもたせているのです。この編集の妙は映画全体の成り行きを象徴的に示しているようにも思われ、なかなか秀逸です。 また、フレディがエイズと診断された病院の廊下で、ファンとおぼしき若者から「エーオ」とコールされ、「エーオ」とレスポンスする印象的なシーンがあります。ライヴ・エイドのステージで、今度はフレ

憎しみから始まる戦いは勝てない〜『エルネスト』

「革命」なる言葉が現実的な意味を担って輝いていた時代と国家がありました。1950〜60年代、キューバ。そして、ボリビア。 キューバ革命の歴史的英雄として今もなお多くの人を魅了してやまないエルネスト・チェ・ゲバラ。1967年、ボリビアでの戦線で死亡。今年は没後50年にあたります。 ボリビアでの革命を夢見て、チェ・ゲバラと行動をともにした日系ボリビア人の医学生がいました。フレディ前村ウルタード。『エルネスト』はその実話に基づいた映画です。 波乱に満ちていたであろう彼らの物語を

怒号と銃弾と男たちの哀しみ〜『アウトレイジ 最終章』

シリーズとしては3作目にあたりますが、タイトルにもあるとおり、これが最終作。裏社会に生きる無法者たちの抗争を描いた本シリーズは、PTA的な良識に照らせば若年層の鑑賞には留意が必要な作品であることは確かでしょう。北野武監督自身が言っているように、今の御時世にはこの種のバイオレンス映画は撮ることも見せることも難しくなってきたのかもしれません。 というわけで、本シリーズではとかく暴力シーンと粗暴なセリフが話題になりがちですが、ここでは裏切りや駆け引きなど、あらゆる人間関係で観察さ

語られない真実に宿る真実!?〜『三度目の殺人』

冒頭でいきなり殺人の現場が描かれます。観客は当然それが事件の真実だと思いこみます。けれどもそれが確かな真実なのか、映画の進行とともに揺らいできます。被告の三隅(役所広司)の話が二転三転するからです。最初は犯行事実は認めていたのに、最後には……。あの冒頭のシーンは何だったのか。誰かの幻想なのか。検察官の見た夢なのか。 少し遅れて担当になった弁護士の重盛(福山雅治)は、真実の追求よりも法廷での勝利のみを目指すクールで冷徹なエリート弁護士。事実の可能性が複数あるのなら、依頼人の利

映画と音楽への愛を歌う〜『ラ・ラ・ランド』

『ラ・ラ・ランド』、アカデミー賞では6部門で受賞した話題作ながら内容に関しては何の予備知識もなく観たのですが、本当によく出来たミュージカル映画だと思います。 物語としては、挫折続きのミア(エマ・ストーン)と自分のやりたいことと実際に売れるものとのギャップに苦しむセブ(ライアン・ゴズリング)とのカップリングで、それじたいはありふれたテーマといえます。むしろそうしたシンプルな仕立てだからこそ多くの人にアピールしたといえるかもしれません。 この種のミュージカル作品では、歌い踊る