【ショートショート】 透明人間
両手にハイヒールを持ち、髪を振り乱しながら
必死の形相で、女が走ってくる。
どうした? 何か事件か?
何故かは知らないけれど、明らかに
俺の方に向かって、走ってくる。
真っ赤な口紅が、女の凄みに拍車をかけた。
俺は、ただ圧倒されていた。
女「お願い、助けて!」
俺「・・・えっ!」
女「いま、変な人に追いかけられてて」
俺「あっ あの・・・」
女「ちょっと前から、ずっと私の後を追いかけてく
るのよ。 あの人、ナイフを持っているわ」
確かに、男が持っているナイフは、街灯に照らされ
銀色に光っていた。
俺「・・・俺の姿、見えるんですか」
女「見えてるに、決まって・・・あれっ?
向こう側まで、透けて見える」
女は、俺の後ろに隠れたつもりだろうが
男の方からは、丸見えだ。
だって俺、透明人間なんでね。
ボー然と立ちすくむ女に、男が迫り
ナイフが鋭く光った。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?