【ショートショート】 死神とコーラ

別に、喉が渇いていた訳じゃない。
ただ暗闇の中で、煌々と光る自動販売機が
私の興味を、そそった。

私は死神だ。
あの世に連れて行く魂の、残された時間に
少しばかり余裕があった為、暇潰しに
ブラブラと、街をあるいていた。
自動販売機の明るさは、少々苦手だが
人間界の飲み物とは、と 眺めていた時
声をかけられた。

男「どうしました? 何かお困りですか?」

死「いや、別に」

男「もしかして、何にしようか迷ってらっしゃるとか」

死「あ、見てただけなんで」

男「やっぱり炭酸ですかね、僕はコーラが一番好き
  なんです」

死「・・・コーラ」

私が連れて行く魂は、まさにこの男のものだ。
都合のいいことに、あちらからやってきた。
そういえばこの男、死に方は確か・・・。

その時だった。
激しい衝突音が、暗闇を切り裂いた。
猛スピードのSUVが、男をはねたのだ。
どうやら、居眠り運転らしい。
男の傍に、買ったばかりのコーラが転がっていく。

そうだ、男の死に方は、事故だったな。
私は、男が買ったコーラを拾い、一口飲むと
その美味しさに驚いた。
コーラを飲みながら私は、男の魂が体から抜けるのを待った。

男「あっ、ソレ、僕が買ったコーラじゃありませんか」

男の体から、魂がぬけたようだ。
まだ、自分の死に気づいてないらしい。
その方が、都合がいいけれど。

死「いやだなぁ、さっき私にくれたじゃないですか」

男「えっ、そうだったかな」

死「そうですよ、そういえば、コーラの新商品が
  あっちのコンビニに、売ってましたよ」

男「マジで」

死「・・・はい」

私は自然の流れを装って、男の魂を連れて行く
ことが出来た。
コーラはしばらく、病みつきになりそうだ。



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