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龍孫江の「畏れながら申し上げます」

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「口を開けば唇寒し、ただ皆様は温かし」 そんな気持ちで数学、または数学から学んだことについて語って参りたいと思います。お代はいりませんがお捻りは歓迎でございます。
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記事一覧

2024年もお世話になりました

 2024年の大晦日も夜9時を回りました.1年も残り3時間,皮肉を言えば年が変わったくらいで何が変わるかというところでもございますが,人間には節目が重要でもありますので,今年の出来事を振り返ろうと存じます.

1.次男誕生(7月) 次男の誕生のあらましはこのエントリーに書きました.

 実はこの後,帰ってきてからが大変でした.今にして思えば,長男が育てやす過ぎたのです.泣くのはほぼ空腹だけ,腹時計

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ゼータ関数の特殊値~超越数探求の最前線~

ゼータ関数の特殊値~超越数探求の最前線~

指数関数$${e^x}$$や対数関数$${\log x}$$はたくさんの超越数を生み出すことがわかりました。そういう関数は、他にもあるのでしょうか?

『笑わない数学』第1巻「素数」で、素数の秘密を握る重要な関数としてリーマンのゼータ関数が登場しました。

$$
\zeta(s) = \frac{2^s}{2^s-1} \times \frac{3^s}{3^s-1} \times \frac{5

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拒絶されて,なお一度

 可換環論botのマシュマロを実質的に閉じて以降,匿名メッセージサービスとしてOFUSEとmondを利用しています.勢いあまって2つも登録してしまったのですが,使い分けの方法が全く思い浮かんでおりません.

 さて,今日はmondで頂いたメッセージにお返事をしたいと思います.切実なご質問だったので,ちょっと時間がかかってしまいました.ご質問はこちらです.

 まず,大学院入試お疲れさまでした.「ま

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【お知らせ】第2子が生まれました

 去る7月19日,幸いにも第2子となる男児が誕生しました.

 今回の出産はちょっと突然でして,本来の予定日は8月中旬でした.7月19日は検診の日で,10時ごろに家を出る妻を何気なく見送り「午後からは撮影できるかなぁ」などと思いながら原稿を準備していました.

 ところが,そこに驚きのメッセージが届きます.

「いろいろあって,今から市民病院に移って入院することになりました」

ベクトル空間って何ですか?──公理とその役割

ベクトル空間って何ですか?──公理とその役割

 数学科でどんなことが行われているのか,コミカルに,しかしかなり具体的に描かれているマンガとして「数字であそぼ」がある.(最近最新11巻が出ました)

 主人公・横辺建己は,高校時代には圧倒的な記憶力とパターン認識で優秀な成績をおさめ吉田大学の数学科に進学したけれど,数学科の最初の講義でデデキント切断にノックアウトされて2年間ひきこもったという,ありそうでもなさそうでもある設定の大学生.

 それ

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新たな仲間に進める何冊か(2024年の春に)

 以前「新たな仲間に進める3冊」として,これから数学科に進学する人,数学を学び始める人におすすめの本を3冊紹介しました.

 この記事を書いてもう3年経っていますし,ぼく自身もこんな活動を続ける中で(あまり専門に近くない)数学の本に目を通す機会も増えました.この3冊がお勧めなのは変わらないとしても,今お勧めするならこんな本を,ということで何冊か追加したいと思います.

 たぶん数学科で学び始めれば

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「待った」をしたい日々──数学科へ進む人たちへ──

 さのたけとさんの記事「数学者を目指す」を読み返して,自分の二十代,つまり研究者としてなんとかやっていきたいと思っていたころをふっと思い出した.

 自分がなんで研究者になれなかったかといえば,全体的にいろいろ足りなかったからという一言に尽きる.「待った」をかけてやり直せるなら,もうちょっとうまくやれる気はする.さすがに今から数学科に戻って学生生活をやり直そうとかは思わないけれど,今から足腰を鍛え

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ゆるゆると数学を楽しみたい人のために

ゆる~い数学好きのためのイベント ここ1か月ほど,時折思い出しては考えていることがあります.それは「ゆるゆると数学を楽しみたい人のために自分に何ができるだろうか」という問いかけです.

 ちょうど1か月ほど前に,『笑わない数学』の書籍版(もうご覧いただきましたか? まだの方は是非お求めを)を一緒に作ったライターさん,編集者さんと会食する機会がありました.そのとき何度か「ゆる~い数学好きのためのイベ

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令和5年もいろいろありましたね

 令和5年もあと6時間を切ったところで慌ててこの記事を書いています.今さら「年が変わる」ことに大した意義を見出す必要があるのかどうか,ぼくにはよくわかりませんが,それでもみんなで揃って「年が変わったことにする」という行為そのものには意味があるように感じています.

 最近のぼくは何事にも「絶対的な価値」みたいなものをどんどん感じなくなっていて,代わりに「人々が皆で何かを取り決めて実行する」というこ

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自前の場所を持ちたいと

5月に大阪の Sou数学ラボ にお邪魔して以来,自前の数学関係の作業部屋(YouTube動画の撮影場所)兼人を集められるスペースを持ちたいという願望が離れない.サイトで店舗物件を眺めてみたり,レイアウトを考えてみたり,あれやこれやと考えてしまっている.

現実的にそこで何をするか,ということになると,ぼく自身は数学の勉強をしたりYouTube動画を撮ったり,将棋を指したり並べたり,ご要望とあれば数

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これから暮らす知らない街でむさぼり読んだマンガの話

3月31日,めしばな刑事タチバナの最新刊が出た.

第1巻を手に取った日のことをぼくははっきりと覚えている.それは2011年3月31日,まだ東日本大震災の争乱冷めやらぬ春の日のことだ.

なぜそんなことをはっきり覚えているのかと言えば,その日は,生まれて以来30年近く住み続けた愛知の地を離れ,川崎市多摩区で新しい生活を始めた日だったからだ.当面の着替えを詰め込んだ大きなリュックを背負って立った新幹

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新企画「龍孫江の直観精読」始めます!

 拙YouTubeチャンネル「龍孫江の数学日誌」では,開設以来3年の間,題材をほぼ代数学に絞ってきました.代数学も細分すれば群論,環論,体論とあり,それぞれ毛色の異なる興味深い理論ではあるのですが,3年も続けていますと作り手としても新しいことにチャレンジしてみたい欲求がわいてきます.

 まあ,3年と経たずに「新しいことを!」と考えては「はじめての可換環」や「数学科への数学ガイド」などの新企画を打

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単純な世界で,文化的雪かきになるには(定期購読マガジンおまけテキスト)

夏の始まりに,その終わりを欲する

 夏生まれだが夏は嫌いだ.幸いぼくは8月の終わり(ともに1ではない異なる2つの立法数の組で表される日)の生まれで,高校生くらいまでは「自分の誕生日からは秋だ」と言い聞かせてきた.

 ちょうどその頃,夏休みが終わるちょっと前くらいから学校祭の準備が始まり,そこから2週間ほど夏の名残りのエネルギーを使って学校祭まで駆け抜けて,そのあと少しずつきちんとした秋がやって

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