[西洋の古い物語]『パレルモのウィリアム』(第7回)
こんにちは。いつもお読みくださりありがとうございます。
『パレルモのウィリアム』は今回で最終回となります。
最後までご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※大寒を迎え、一年で最も寒いこの時期ですが、黄色いガラス細工のような蝋梅の花がご近所のお庭で咲き始めました。心が温かくなって、春への希望が膨らみます。画像はフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございました。
『パレルモのウィリアム』(最終回)
やがてスペイン王が新たな軍勢を伴って逆襲に至り、戦闘が続きました。遂にスペイン王はウィリアムに降伏を余儀なくされ、ウィリアムは捕虜とした王を母上のフェリス王妃のもとへと連れて行きました。王妃は王を厚い礼節をもって迎え入れ、晩餐の席では彼女の隣に王の席を設けました。また、同じく捕虜となっていた貴族たちも宴席に連なりました。
翌日、宮殿の広間で講和条件を検討する会議が開かれました。スペイン王とその子息も出席しておりました。彼らの町を攻囲し麦畑に損害を与えたことに対して敵はどれほどの罰金を支払うべきかについて、各自が順に述べました。この重要な議論の最中のこと、開け放たれたドアから一匹の狼が入ってきて、スペイン王のところへ駆け寄ると王の足に口づけをしました。そして王妃とウィリアムにお辞儀をし、やってきた時と同じように出て行きました。
狼がドアから出て行き尾っぽが見えなくなりますと、護衛兵たちは、思いがけないものが現われたために消え失せていた勇気を取り戻しました。彼らは狼を追跡するため、はじかれたように駆け出しましたが、雷光の閃きのようにウィリアムは身を挺して彼らの行く手をさえぎり、叫びました。
「もしあの獣を傷付けるような真似をしたら、この手で成敗するぞ。」
皆はウィリアムが本気で言っていることがわかりましたので、こそこそと持ち場に戻りました。
全員が着席し、あらためて会議のテーブルを囲みますと、ウィリアムは尋ねました。
「惠深き国王陛下、どうぞお教えください。何故あの狼は他の方々ではなくあなた様にお辞儀をしたのでしょうか。」
すると王はこのように答えました。ずっと昔、王の最初の妃が息子を一人残して亡くなりましたが、その後ほどなくして王は再婚、二番目の妃も息子をもうけました。ある日、王が戦から帰ると、妃は長男が溺れて亡くなったと告げました。しかし、後になって彼は、妃が長男を狼に変え、自分の生んだ子供が王位を継承できるようにしたことを知るに至ったのでした。
「そして私が思うに」と王は加えて言いました。「あの狼こそが私が失った息子かもしれぬ。」
「おそらくその通りでございましょう」とウィリアムは叫びました。「と申しますのも、あの狼は人間の心を、それも賢明な人間の心を持っておりますから。彼は、私がひどい窮地にあるときに何度も私を助けてくれました。もしお妃様があの方を狼に変える魔法の技をお持ちなのでしたら、お妃様の呪文は彼をもう一度人間に戻すことができます。ですから、陛下、ご子息が獣の姿でなくなるまで、あなた様もご家来たちも解放することはできません。お妃様にここにおいでになるようお命じなさいませ。もしお妃様が否とおっしゃるようなら、私自身がお妃様をお連れいたしましょう!」
そこで王は有力な貴族の一人を呼び、スペインに急ぎ赴いて自分に起こった事を王妃に伝え、大至急彼女をパレルモへ連れてくるように、と命じました。スペイン王妃はこのお召しに気乗りしませんでしたが、拒否することもできず、到着するやただちに大広間に連れて行かれました。大広間にはスペイン、シチリア双方の大勢の人々が詰めかけていました。全員が参集しますと、ウィリアムは自分の部屋から狼を連れてきました。狼は継母が到来するまでの数日数夜、ウィリアムの私室に寝泊まりしていたのでした。
彼らは一緒に広間に入ってきましたが、自分にひどいことをしたあの邪悪な婦人の姿を見ると、狼の背中の剛毛は逆立ち、聞く者皆の血を凍らせるような唸り声を上げて狼は彼女がいる上段へととびかかりました。しかし、幸いにも、ウィリアムが目を光らせておりました。彼は、狼の首に両腕を回しておさえつけ、囁きました。
「親愛なる優しい狼よ、実の弟のように私を心から信頼してほしいのです。あなたのために私が彼女を呼びにやったのです。もし彼女が邪悪な呪文を解かなかったら、私が彼女の身体を炭になるまで燃やし、その遺灰を風に撒き散らしましょう。」
邪悪な妃はいかなる運命が自分を待っているか、また、もはや抵抗はかなわないことがよくわかっておりました。狼の前に沈むように跪くと、彼女は自らが行った悪事を告白し、加えて言いました。
「お優しいアルフォンソ様、すぐにあなたの端正なお顔と元通りのお体を皆様にお目にかけましょう。私さえおりませんでしたらこうはならなかったものを!」
そう言うと彼女は狼を個室に連れて入り、小物袋から赤い絹糸を取り出して自分がつけている指輪に結びつけました。いかなる魔法もその指輪の力を破ることはできません。この指輪を彼女は狼の首の周りにかけ、その後、書物から幾つかの韻文を彼に向かって読みあげました。狼が自分の身体を見てみますと、ほら、元の人間になっておりました!
アルフォンソ王子が戻ってくると、パレルモの宮廷は大きな歓喜に包まれました。王子は妃の悪事を許し、また、こんなに理不尽で血みどろの戦争を引き起したことで父上を非難しました。
「疫病と飢饉がこの土地を餌食とするところでした」と彼は言いました。「もしこの騎士殿(ウィリアムのこと)が、その本名はあなたには知らされていませんが、あなたの救援にやってこなかったならば。彼こそこの国の正当な君主なのです。なぜなら、彼はエムブロン王とフェリス王妃のご子息なのですから。そして私は彼をさらっていった狼です。実の叔父上によって計画されていた酷たらしい死から彼を救うためでした!」
こうして物語は終わり、全ての人が幸福になりました。狼は、今やアルフォンソ王子ですが、ウィリアムの妹と結婚し、然るべき時が来るとスペイン王国を治めました。そして、ウィリアムとメリオールはパレルモで暮らしましたが、彼の父上である皇帝が崩御なさると、ローマ人たちは皇帝の後継ぎとしてウィリアムに王冠を捧げました。
さて、もし皆様が彼らについてもっとお知りになりたいのでしたら、ご自分でこの物語をお読みにならねばなりません。(終わり)
『パレルモのウィリアム』はこれでお終いです。
最後までお読みくださりありがとうございました。
次のお話をどうぞお楽しみに!
この物語の原文はこちらに収録されています。