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[西洋の古い物語]『パレルモのウィリアム』(第1回)

こんにちは。いつもお読みくださりありがとうございます。
今回は、狼にさらわれた王子のお話です。何回かに分けてご紹介したいと思います。ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

今年もあっと言う間に12月に入りました。
「師走」の名のとおり、何かと慌ただしい時期ですが、冬至へと至る一年で最も夜が長いこの時期、静かに物語をひもとくのも心楽しいものですね。
(※美しい黄金色の銀杏の画像は、フォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございました。)

『パレルモのウィリアム』(第1回)

 何百年も前のこと、パレルモ(イタリア、シチリア島北西部の都市)の美しい都に幼い王子が住んでおりました。この王子は、両親だけでなく、王子を見た全ての人から、世界一の美少年だと思われておりました。

 彼が4歳になりますと、母上である王妃は彼を乳母から離しす潮時だと決心しました。そこで王妃は、若い頃からの友人で、宮廷に仕える貴婦人を2名選び出し、彼女たちに息子を委ねました。彼は母上のお国の言葉であるギリシャ語を読み、書き、話すことを教えられることとなりました。そしてラテン語も。王侯は皆ラテン語ができねばなりませんでしたから。他方、式部卿は王子が乗馬と射撃を学ぶよう、また王子が大きくなったら剣の振い方を身につけるように注意を払いました。

 暫くの間は、何もかもが王と王妃が望むとおりうまくいきました。ウィリアム王子は理解が早く、そのうえ、見たことのない黒い文字が書かれた羊皮紙の巻物――それは彼の教本でありました――の意味を解することであれ、彼を蹴り落とそうとする小馬をならすことでも、何事でもやろうと試みたことについては負けず嫌いでありました。パレルモの人々はこれを見て、互いに囁きあいました。
「ああ!どんなにか立派な王様におなりになることだろう!」
(※王子の名前はフランス語原典ではGuillaume [ギョーム] ですが、ここでは英語読みでウィリアムとさせていただきます。シチリアの王子という設定ですので、本来はイタリア語読みでグリエルモ [Guglielmo] が正しいのかもしれませんね。)
 
 しかし、まもなく、こうした希望に恐ろしい結末がやってきたのです!
ウィリアムの父上であるエムブロンズ王には弟がおりまして、幼い王子がいなければこの弟が王位継承者なのでした。彼は邪悪な男で、甥を憎んでおりました。彼は少年が生まれた時には戦で遠くにおり、戻ってきたのは5年後でした。戻ると彼はさっそくウィリアムのお世話係の2人の貴婦人と仲良くなり、徐々に彼女たちの信頼を得ていきました。やがて彼は約束や贈り物で彼女たちに働きかけ、ついには彼女たちも彼のように邪悪になり、子供だけでなく父王をも殺害することに賛成するようになりました。 
 
 さて、パレルモの宮殿に隣接して大きな庭園があり、そこには花咲く木々が植えられ、野生の動物がたくさんおりました。王一家はこの庭園を散策することを愛しており、緑の草地でしばしば馬上槍試合や娯楽を催しました。その間、ウィリアムは飼い犬と遊んだり花を摘んだりしておりました。
 
 ある日、それは祝祭の日でしたが、宮廷中が正餐を済ませた後、正午に庭園へと行きました。王妃とお付きの貴婦人たちは王の寝台用の上掛けに刺繍するのに勤しみ、王と廷臣たちは的を狙って矢を射ておりました。そこへ突然、茂みから巨大な灰色の狼が、口を開け、舌を垂らして、とび出してきました。驚愕した皆が我に帰る前に、その巨大な獣は幼い王子を捕え、彼をくわえたまま庭園を抜けて壁を跳び越え、海辺の平野へと跳ねるように駆けていきました。廷臣たちが我に帰ったときには、狼も子供も姿が見えなくなっておりました。 
 
 ああ!幼い息子が自分たちから永久に失われたことがわかったとき、王と王妃はどれほど泣き、嘆いたことでしょう。王子は酷たらしく死んでしまうだろう、と彼らは思いました。というのも、館に帰ればもっとひどい死が待っていることを勿論彼らは知らなかったのですから。 
 
 最初こそびっくりしたものの、ウィリアムは自分の身に起きつつあることがあまり怖くはありませんでした。狼は彼を背中の上に載せ、しっかりと両耳を掴んでいるように言いました。少年はふさふさした毛の間に気持ちよく座り、メッシーナ海峡(シチリア島北東部メッシーナとイタリア半島の間の海峡)を渡るときには足さえ濡れませんでした。海峡の向こう岸はローマからさほど遠くなく、そこには高い木々の森がありました。

 もうこの頃には暗くなってきていましたので、狼はウィリアムを柔らかなシダがこんもりと茂っている場所におろし、美味しい果物の枝を一本折り取ると、それを夕食として彼に与えました。それから狼は前足で土をかき出して深い穴を掘り、苔やふんわりした草を敷いて、そこで二人は横になり朝まで眠りました。お母様がいなくて寂しかったけれど、ウィリアムはこれまでこんなに楽しかったことはありませんでした。 
 
 八日間彼らはその森の中にとどまりました。少年はもう他の所では一度も暮らしたことがないように思われました。見て楽しく、やって面白いことがたくさんありましたし、遊び疲れると狼が物語を話してくれました。
 
 しかし、ある朝のこと、ウィリアムは、まだよく目覚めないうちに前脚で優しく揺すられたように思い、身を起こして回りを見回しました。
「よくお聞き」と狼は言いました。「私は今すぐ、森の向こう側に行かねばならないのだ。友人のために用事ができて、日暮れまで戻らない。この寝穴が見えない所まで迷い出ないように気をつけなさい。すぐ迷子になってしまうぞ。あの桜の木の下に果物や木の実がたくさんある。」
 
 そう言うと狼は行ってしまい、子供はまるくなってもう一眠りしました。日が高く昇り、日光が彼を目覚めさせますと、起き上がって朝食を食べました。食べていると、青や緑色の羽をした小鳥たちがやってきて肩にちょこんと止まり、彼が口に入れようとしている果物をつつきます。ウィリアムは小鳥たちと友達になり、小鳥たちは頭をなでさせてくれました。

『パレルモのウィリアム』(第1回)はこれでお終いです。
お読みくださり、どうもありがとうございました。

狼は実はウィリアムを助けてくれたのですね。人間の言葉を話す不思議な狼は、一体何者なのでしょうか。狼が留守の間にウィリアムに何が起きるのでしょうか。次回をどうぞお楽しみに!

上の記事は、古いフランス語の物語『パレルモのギョーム』(Guillaume de Palerme)の抜粋を子供用の易しい英語に翻訳したものの試訳です。英語の原文は以下に収録されています。

 

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百合子
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