「禅」の海外事情
日本人でも禅的な思想の歴史やその発展、ましてその中核をなす哲学を理解するのは難しい。
仏教の一派である禅宗は仏教の初期からその萌芽があり一応の完成を見たのち菩提達磨により中国にもたれされた。
中国人は本来的に現実主義的なものの考えをする。よって来生とか永遠の生命とかに余り関心を持たず今現在ここでの幸福や利益を求める性向が強い。
禅の本質である悟りは今現在此処のあり方がテーゼとなるから中国の風土にマッチし大いに栄えることになった。そして臨済禅は栄西により曹洞禅は道元により日本にもたらされ当時の武家階級の支持を受け急速に日本国内に広まった。
禅はインドで生まれ、中国で発展し、日本で完成したといわれるように日本の精神文化に深く関わるようになった。
禅の場合、『座る』という実践やその経験が大事とされ、知識を退ける直感が大事とされる。だから、どんな動機があろうともそこへのバックグラウンドを必要としない。
西欧世界の宗教であるキリスト教、そこから派生したイスラムは絶対一神教である。反して禅は相対主義的なものです。
相対的とはこの世界のものは、全て単独では存在しえないもの、須らく相対的存在ということであり、その状態が刻々と変化することを意味します。
このことから、物事の執着や固定観念を離れることを主張します。
簡単に言えば、禅の識者、専門家はこのように言います。
「禅は、いい一生を遂げることができた。と最期に思えるように生きるにはどうしたらいいか、という問いに自ら向き合うもの。ほとんど哲学に近いもの」といいいます。
禅宗の僧侶であり禅の庭をデザインする枡野俊明(曹洞宗徳雄山建功寺住職)老師はこのようにもいいます。
「哲学は学問なので、論理が成り立てばいい。禅は、実践であり体得です。学ではなく修行であり、行=実践を修めていくことで、小さな悟りを積み重ねる。
日々の生活そのものが修行と言えます。そして生き方を極めるためには、物質的な豊かさよりも、精神的な豊かさに重きを置きます。
老師の作庭デザイン論は次のようです。
「西洋のデザインは100パーセント、目に見える形の美しさありきです。ところが日本の場合、侘び寂びとか瀟洒といった、形のないものを大切にします。
特に禅のデザインは、自分が修行を通して感じたものを形に置き換える心のデザインです。
そう話すと、外国人であるハーバード大学の聴衆は形をデザインしないのかと驚きます。
また、西洋の思想のよりどころはキリスト教ですが、神がいて、神のつくり給う人間がいて、人間を支える自然があるというヒエラルキー(階層、構造)があります。庭園に植える木ひとつとっても、人間の思い通りにさせる。主従関係が表れるのです。
一方、仏教では、人間はあくまで自然の一員です。「禅の庭」では、植物も石も、人間と同等。木にも心があると捉え、その木にとって最もふさわしい位置を木と対話しながら決めるのです。
講義後の質疑は、それは大変でした。進行役の人が「これで最後」と打ち切ろうとしても、挙手が止まないのです。世界中から集まった優秀な学生たちが、真剣な表情で「木や石といった塊にどうして心があるんですか?」などと聞いてきました。
白熱した講義を終え、庭園デザインを通して、禅のあり方を深く知ってもらえたと手応えを覚えました。
「アメリカでは今、禅に傾倒する人が増えているという。Googleなどに代表されるシリコンバレーでは多くの企業で、禅のエレメントを取り入れたプログラムが実施され、アップル創業者であるスティーブ・ジョブズも禅を愛した。
なぜ、今アメリカ人は禅に夢中なのか。この疑問を解決すべく、日本で暮らすアメリカ人禅僧のスコットさんに「禅とは一体何なのか」「なぜアメリカで禅が注目されているのか」について聞いた記事の要旨の一部を書いてみた。
Scott Mangis(スコット・マンギス)禅僧
「禅とは、自分自身の存在の真実を探すことです。私達の多くはビジネスカード、パスポート、人種、性別で定義されます。しかし、「私はアメリカ人です」「私は男性です」「私はスポーツが好きです」というのは、ただのラベルであり、真実ではありません。禅はあなた自身の真実へ帰るプロセスです。」ZEN is basically searching for the truth of who you are.
座禅の修行のポイントは、「これはいい考えだ」「悪い考えだ」「いい日だ」「悪い日だ」などのジャッジをすることを辞めることです。心の中に浮かんでくる思考をスローダウンさせることで心にスペースをつくることができます。
アメリカ人で禅に関心を持つ人たち、彼らは目的を達成するためのツールとして禅を使います。
禅をすれば、仕事でもっと成果を出せる、昇進できると思う。しかし、禅の修行を続けていくとエゴは消えていきます。
なぜなら、エゴというものは自己と他者の間に発生するものだからです。禅を続けていくと、自己の本質に繋がります。全てはラベルであったということに気づくのです。
禅修行の一歩は、呼吸法であり、まず呼吸に着目します。呼吸を整えることによって、β波である脳波をα波へ持っていくのです。あなたがリラックスをしてα波の状態になると、革新的なアイデアなどが浮かびます。
α波の次はθ波が出ます。θ波は睡眠の中でも夢を見ている時に出る脳波です。そしてより瞑想が深くなると今度はδ波がでます。これは、夢を見ていないもっとも深い眠りであるノンレム睡眠の時に出る脳波です。δ波は、体力や精神を回復させるためとても重要でで、座禅のもっとも深いステージです。ここまでいくと素晴らしい感覚を味わうことができます。
座禅がうまくなってくると日常生活でも脳波をコントロールすることができるようになります。緊張を強いられる時でも、コントロールができるのでリラックスできるのです。毎日20分間座禅を組むべきだと思います。1日3回5~8分の座禅を続ければ、あなたの人生の変化に気づくでしょう。
日本人が日本で禅を目指すより、よりシンプルな方法で指導されてされているようだ。これは禅的な瞑想をマインドフルネスと言い表すことからも伺える。
多くのアメリカ人は禅を宗教だと信じています。他の宗教を持っている彼らにとっては仏教と信じる”ZEN”という言葉を使うことことには抵抗があるのでしょう。それ故、ビジネスや多く場面で禅は「マインドフルネス」と置き換えるのです。“ZEN” is not religion but practice.