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業務が属人的な会社は発展しない

[要旨]

公認会計士の安本隆晴さんが、ファーストリテイリングの監査役に就任し、上場のための準備を始めたとき、同社は、まだ、管理部門の業務が属人的になっている状態でした。そこで、安本さんは、柳井社長に改善を依頼し、経理部門の従業員を中途採用してもらうことにより、管理部門の体制を強化しました。これにより、同社は、上場を果たせるようになって行きました。

[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、株式を上場させる前のファーストリテイリングでは、社長の柳井さんが、マイルストーンを掲げ、それを目指して活動してきたことが、同社を発展させた大きな要因になっていると考えられ、具体的には、1991年に、「標準的な店舗を、毎年、30店舗ずつ出店し、3年経てば90店舗以上となり、上場できる規模になる」というマイルストーンを柳井さんが掲げ、1994年に、株式上場を遂げることができたということについて説明しました。

これに続いて、安本さんは、株式公開を目指そうとしていたころのファーストリテイリングの体制について述べておられます。ちなみに、安本さんは、安本さんの株式公開に関する本を読んだ柳井正さんから請われて、1993年11月に、同社の監査役に就任しています。「初めに、経営幹部数目にインタビューし、どのような業務を分担しているのかを聞き出しました。組織図をつくるには、経営戦略を機能別に分解し、各部門にその機能を割りつけ、細かな業務分掌を別紙に記入しながら、それぞれのミッション(使命・目的)を決めていきます。(中略)中小企業の組織図を書こうとすると、どうしても属人的になり、部門の名称を書くよりも、人の名前を書いただけの組織図の方が実態を示し、しっくりくることがあります。

当時のユニクロもそうでした。でも、属人的組織図では、本来は、必要な機能なのに、担当者がいない、あるいは兼務している、という部署が明確に表現されません。当時のユニクロには、管理部門に人材が2~3人しかいなかったので、商品部や店舗運営部は、担当業務ごとに(組織図へ)人名を書き込んでいけたものの、管理部門(の組織図)には、空欄ばかりが目立ちました。(中略)例えば、管理部門は(中略)現業部門(ライン部門)の行動を会計数字で計測し、管理し、促したり、規制したりする部門であり、会社全体の会計思考の総元締めなのです。

顧問税理士の先生には、税務申告だけでなく、月次決算や本決算を依頼していたので、経理や財務の専任の担当者がまったくいませんでした。現在からは考えられないことですが、中小企業にはありがちなケースです。インタビューした幹部の中に、CFO(財務担当責任者)に最適な人(広証上場時の専務取締役)はいましたが、肝心の経理マンが1人もいなかったので、柳井社長に依頼して、なるべく早く、経理・財務の担当者を中途採用してもらうことにしました。これは、経理と財務の重要性を、柳井社長が理解してくれたことにより、すぐに実施してもらえました」

黎明期の会社は、役職員数が少ないので、業務が属人的になりがちです。さらに、経理などの管理部門業務は内部の業務であり、顧客などの外部向けの活動より後回しにされがち(というよりも、やらなくてもよいのなら、やらないですませたい)です。しかし、管理部門の業務は、これまで説明してきた通り、会社の発展には欠かせない重要な業務です。そこで、問題になるのは、管理部門がきちんとした体制を整えられていない状況を続けていると、単に、業績が向上しないということよりも、いわゆる、「家業」、または、「オーナー会社」のままになってしまい、事業の規模が頭打ちになってしまうということです。

事業規模が大きくなれば、それにあわせて管理部門も「精緻」なものにしなければなりません。そこで、属人的な業務をなくしたり、「空欄」の部署を埋めたりして、組織的に活動できるようにする必要があります。事業拡大というと、経営者の方は、ライン部門の従業員数を増やすことに目が行きがちですが、それと同様に、管理部門の機能も強化したり、整備したりして行く必要があります。それは、ファーストリテイリングの例が示してくれています。繰り返しになりますが、もし、自社の事業を拡大しようとしているにもかかわらず、頭打ちになっている場合、それは、体制整備が不十分であることも要因になっていると考えることができます。

2024/1/5 No.2578

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