成長期のジレンマ
[要旨]
成長期に入った会社の中には、その地位に安心してしまい、リスクをとって新たな事業拡大をしようとすることを止めてしまう場合もあるようです。しかし、計画的な資金管理をしていれば、ある程度のリスクに耐えることが可能な状態にることから、安定的な事業拡大を維持するためにも、資金管理は重要であると言えます。
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今回も、前回に引き続き、税理士の児玉尚彦さんのご著書、「会社のお金はどこへ消えた?-“キャッシュバランス・フロー”でお金を呼び込む59の鉄則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。児玉さんは、会社の事業の成長期を迎えても、成長が止まってしまう会社があるとご指摘しておられます。「せっかく成長期を迎えても、成長期を早く終えてしまう会社も少なくありません。これは、社長を始め、社員が現状に満足することにより起こります。銀行の支店長に、『業績も会社の財務状態も申し分ないですね』と褒められると、さらなる成長を目指して、リスクを取ることをしなくなります。
現状の状態を維持して、安定を望むようになるのです。私は、これを、“成長期のジレンマ”と呼んでいます。そして、現状に満足した時から、衰退が始まります。会社によって、目標や価値観が、それぞれ違いますから、戦略もお金の使い方も違って当然です。地域で一番店を目指すのか、日本一、世界一を目指すのかは様々ですがあ、目標を達成するには、売上を増やす前に、お金の準備が常に必要です。お金を前もって準備して、お金を使い切る前に回収しながら、次のお金を調達する、この繰り返しが、ビジネスの上昇気流に乗るための必要条件なのです」(257ページ)
児玉さんの、「現状に満足した時から衰退が始まる」というご指摘は、あまり論理的とはいえないものですが、孫氏の兵法にも「攻撃は最大の防御なり」とある通り、積極的に活動をしていなければ、事業は衰退してしまうということは、ビジネスパーソンであれば、感覚的にご理解されることだと思います。ただ、私としては、前述のような会社が、成長期に安定を求めてしまう原因には、リスク耐性が低いという面もあるからではないかと思っています。もし、資金管理をしていて、ある程度のリスクをとることができるという自信がある会社は、成長をやめるようなことはしないのではないかと思います。
これを言い換えれば、資金管理を実践していない会社は、積極的にリスクを取りにいけず、その結果、安定を求め、そのことが衰退につながってしまうということなのではないかと、私は考えています。とはいえ、経営者の方の中には、「計画を立てても、必ずしもその通りになるとは限らない」と考え、計画的な行動はせず、成行的にしか事業に臨もうとしない方もいるようです。でも、計画的な資金管理を行うことは、リスク耐性を高め、事業の安定的な成長を維持できるようにするためには、欠かせない活動だと、私は考えています。
2023/1/3 No.2211