PDCAで顧客の本当のニーズに近づく
[要旨]
阪神佐藤興産の社長の佐藤さんは、自社をサービス業と捉え直しましたが、それに対応して、お客様との接点である社員のレベルを高めていく必要があると考えたそうです。そこで、部門ごとに、毎週、「戦術会議」を開くことにしたそうです。その会議では、各社員がお客様の要望などを報告し、それに対して上司がアドバイスを行い、翌週はそのアドバイスを実践した結果を報告するということを繰り返したそうです。こうすることで、時間はかかっても、着実に社員の方の能力を高めることができたそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、佐藤さんは、新たな顧客を開拓していくなかで、顧客との関係を強化し、また、相手に評価される提案をしたりするということが、新たな受注を得るためには重要であるということを実感しました経験から、自社を、建設業ではなく、サービス業と捉えるようになったと説明しました。
これに続いて、佐藤さんは、自社をサービス業として事業展開するために、人材教育を行っているということを述べておられます。「自社をサービス業と捉え直すと、お客様との接点である社員のレベルを高めていく必要があります。大企業との規模やブランドで劣る中小企業は、教育によって、一人ひとりの人材を、差別化の手段にしなければならない。そこで、お客様から、『阪神佐藤興産の○○さんにお願いしたい』と言っていただける『行列のできる人づくり』をしたいと考えて、当社では社員教育、そして、採用に取り組んできました。
私が営業活動に取り組み、そしてそれを組織展開したときから、取り組んでいるのが、部門ごとに毎週1回行っている『戦術会議』です。戦術会議では、各社員が、自分のお客様のところに出向いた際に、要望や期待などの『声』を聞いていきます。その内容を報告し、その報告に対して、私や直属の上司、また、担当取締役が行動のアドバイスをする。翌週は、そのアドバイスをやってみた結果を報告する。戦術会議は、時間にして30分です。たった、これだけのことかと思われるかもしれませんが、これを3年間、毎週、繰り返してきた。お客様の声は、小さなことであっても、そのとき、実際に動いている現場での最新の情報です。
その情報に対するアドバイスが、有効に機能すれば、小さなことでも確実に改善されていきます。すると、その社員のお客様に対して、何をすべきかの焦点が絞られ、一方で、視野が広がっていく。それが営業と現場の活動の両輪のスキルになっていくのです。そして、そのことにより、社員にとって、目先のことだけではなく、“目先の先”を見据えてお客様への対応が可能になるのです。かつては、私が社員に対して、『ああしろ、こうしろ』と、直接、思いつくままに指示をしていました。まったく組織的ではなく、ただ、指示を飛ばすだけで、チェックもしていませんでした、
社員が理解しているのか、伝わっているのか、気にもとめていないのかは、まったくわからず、私の自己満足になっていました。しかし、この戦術会議と言う仕組みを導入してからは、考え方や営業活動が整然となり、組織としての営業の方向性についても、社員が共通の理解のもとに行動できるようなりました。戦術会議は、PDCAサイクルを回す場そのものです。(中略)このPDCAサイクルをぐるぐる回しながら、お客様の本当のニーズに近づいていく。行列ができる人づくりのために、不可欠な取り組みです」
佐藤さんは、「戦術会議の場で、PDCAサイクルをぐるぐる回しながら、お客様の本当のニーズに近づいていく」と述べておられますが、顧客から評価されるための人材育成は、これに尽きると思います。顧客から評価される人材を育成するためには、何か特別な方法を行わなければならないと考える経営者の方も少なくないと思います。しかし、これも、佐藤さんが地道に新規顧客開拓を行ったときと同様に、毎週、改善策を考えて実践し、それを検証するという地味な活動の積み重ねを続けるしかないようです。
確かに、このような活動は、一朝一夕で効果は表れません。しかし、これを言い換えれば、人材育成のためには、それを実践する会社や経営者に、何か特別な能力が必要なわけではないので、どんな会社でも実践することができるし、評価される会社になる機会もあるということです。したがって、「勝てる会社」になれるかどうかは、最終的には、PDCAを実践するかどうかということになるでしょう。
2023/12/14 No.2556