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マーケティング・コンセプトは顧客起点

[要旨]

かつて、米国の鉄道会社は、鉄道事業だけに焦点をあてていたため、他の移動手段を提供する事業には進出せず、自動車や航空会社などに顧客を奪われしてまいました。顧客にピントを当て、自社の事業を輸送事業ととらえていれば、斜陽産業にはなっていなかったと考えられます。このように顧客を起点とするマーケティングの考え方は重要であり、これをマーケティングコンセプトと言います。

[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、マーケティングとセリングは相補う関係ということを説明しましたが、その中で、マーケティングは顧客を起点として考える顧客志向であるということについて言及しました。

これに関し、鈴木さんは、マーケティング・コンセプトについてもご説明しておられます。「顧客を起点として考える顧客志向は、マーケティングの根本となる考え方なので、『マーケティング・コンセプト』とも言われます。それは、マーケティングの神様とも呼ばれる、セオドア・レビットが、1960年に書いた、『マーケティング近視眼』という論文をきっかけに広まりました。

レビットは、事業の定義(目的)は、商品中心ではなく、顧客中心にすべきであると提唱しています。目の前の商品中心に見るのは近視眼的であり、商品の背後にいる顧客中心に見るよう視力を矯正しなくてはならない、というわけです。そして、レビットは、当時の鉄道事業の例をあげています。米国の鉄道会社は、鉄道という焦点ばかりを見ていたので、自動車や航空機のニーズを満たすことなく放棄してしまいました。顧客にピントを当てて、事業を輸送というふうにとらえていれば、そうしたニーズを自ら満たし、斜陽産業にはなっていなかったはずです」(53ページ)

この近視眼的経営は避けなければならないということは、多くの経営者の方に知られています。しかし、これは鈴木さんも別のところで言及しておられますが、2012年に経営破綻した、米国のイーストマン・コダック社は、銀塩フィルムの市場に固執したという近視眼経営に陥っていました。同社の失敗は、同業種であるにもかかわらず、デジタルカメラ市場に経営資源を投入することに成功した、富士フイルムホールディングスと比較して、その判断の誤りが明確にされています。

とはいえ、近視眼的にならなければよいのかというと、会社の経営資源には限界があるので、ある程度は事業は絞り込まなければなりません。例えば、IBMは、1960年代は、電子計算機で圧倒的なイニシアティブを持っていましたが、2005年にパソコンの製造部門をレノボ社に売却するなどして、現在は、コンピュータ関連のサービスや、コンサルティング事業が、同社の中心的な事業になっています。少なくとも、需要が減少している市場から早期に撤退できるようにするためには、近視眼的な経営に陥らないようにすることは大切ということに変わりはありません。

2023/2/23 No.2262

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