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尊重して向き合うと相互理解が深まる

[要旨]

エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんによれば、かつて、ゆっくり仕事をしたり話をしたりする部下を持つリーダーが、その部下にイライラしていたので、相手に合わせて接してみることを薦めたそうですが、そのリーダーは、部下の動作に合わせて、話す速度と体の動き、呼吸の速度をいつもよりゆっくりにしてみた結果、これまでよりもずっと順調に打ち合わせができるようになったそうです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんのご著書、「最高のリーダーほど教えない-部下が自ら成長する『気づき』のマネジメント」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、鮎川さんによれば、部下に成長してもらうためには、部下に自分で考える機会を与えなければならないものの、部下に対しての上司のアドバイスが実質的な指示になってしまい、考える機会を奪ってしまっていることがあるので、注意が必要ということについて説明しました。

これに続いて、鮎川さんは、上司が部下に合わせて接し方を変えることが大切ということについて述べておられます。「何事もスピーディで論理的な、あるリーダーの方がいました。これに対し、部下は何をするにもゆっくりで、リーダーは彼にかかわるたびに、いつもイライラし、部下の挙動や仕事の進め方も理解できずにいました。部下がゆっくり答えれば答えるほど、『なぜ、さっさと話せないのか』という思いかあら、余計にスピードが増し、声も大きくなっていきがちでした。(中略)そんな中、たまたま私のセミナーに参加し、『相手に合わせる』を学びました。

しかしながら、自分がイライラしている相手、しかも部下に合わせるということに抵抗感があり、あまり乗り気ではなかったそうです。とはいえ、『このままこんな状態で部下と働き続けていくことに耐えられるのか?』と考えるとハッとし、もういい加減こんなことは続けていたくないと強く思い、勇気を出してやってみようと、心に決めたのです。(中略)その時、そのリーダーがやろうと決めたのは、相手の動作に合わせて、話す速度と体の動き、呼吸の速度をいつもよりゆっくりにし、姿勢はうつむきにしがちにし、話す声の大きさを小さくしていくというものでした。

そして、当日、部下を観察しながら相手が気づかない程度にし、試してみました。すると、結果は、これまでよりもずっと順調に打ち合わせができたのです。部かもいつも以上に話をしてくれました。リーダーも部下の感覚と気持ちが少し想像できるようになりました。こういう体の感覚と動いているんだな、きっとこんな気分なんだろうなと。そして、部下のことを理解していたところがあったかもしれない、と思い始めたのだそうです。この体験をきっかけに、このリーダーは部下と話す時に自然と前向きに、部下に合わせていくようになりました。

そして、部下がこれまで自分に言わなかった考えや本心を話してくれるようになっていったのです。部下に対して好奇心を向けてかかわっていくと、相手の良さやどこを伸ばしていくといいのかなど、感覚として理解できるようになっていきます。そして、徐々に自分とは異なるタイプのいろんな人の気持ちや、考え方に触れることができるようになっていったそうです。部下も以前より堂々と話してくれるようになりました。『あの時、勇気を出して本当によかった』と、このリーダーは言ってくれました」(94ページ)

鮎川さんが受講生に教えた手法は、ミラーリングと呼ばれるものと思われますが、これは広く知られているようです。しかし、一般的に、経営者や管理職の人たちは、たくさんの仕事をして、たくさんの成果をあげた結果、昇格した人たちなのだ思いますが、そういう人たちは、部下に対してもスピーディーさを求めることが多いでしょう。そこで、上司とスピーディーにやり取りができない部下は、そのことだけで上司から能力が低いと判断されてしまいがちになるのかもしれません。

仮に、あまりスピーディーな応対ができない部下が、コミュニケーションスキル以外のポテンシャルが高かったとしても、ビジネスパーソンなのであれば、上司だけでなく、顧客や仕入先とも交渉をしなければならないこともあるのだから、コミュニケーションスキルに問題があれば成果を出すことができないと判断されることが妥当と言えるかもしれません。しかし、現在の日本は人口減少の時代であり、「優秀」な従業員を見つけることは容易ではなくなりつつあります。

そうであれば、どんな従業員であっても、個々のポテンシャルを存分に発揮できる環境が整っている会社の方が業績を高めることができると言えるでしょう。したがって、経営者や管理職の方は、鮎川さんがご提案しているように、「相手に合わせる」対応をすることが賢明だと、私は考えています。ただ、これについては、論理的に理解できる方がほとんどだと思うのですが、元々、他者にスピーディーさを求めるとういう方の習性は、一朝一夕に変えることは容易ではないということも現実のようです。

また、当初は、部下に合わせて傾聴するということはできても、徐々にそれを維持できないという方もいるようです。したがって、私は、そのような経営者や管理職の方は、まず、部下への働きかけが重要な役割だと認識することが大切だと思います。鮎川さんも、別のところで述べておられますが、上司が部下とのコミュニケーションに時間をかけると、事業活動の速度が一時的に遅くなりますが、上司だけでなく部下も能動的に活動すようになれば、会社は数年後には競争力の高い組織になります。

2024/11/6 No.2884

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