見出し画像

組織に大切なのは能力ではなく価値観

[要旨]

変圧器メーカーのNISSYOの社長の久保寛一さんは、従業員の採用にあたっては、能力が高い人よりも、価値観を共有できる人を採用するようにしているそうです。その結果、12年間で退職した新卒社員は5名のみ、新卒定着率は80%以上となっており、これが、組織の活性化につながり、業績を高める要因になっているそうです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない! 町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、久保さんは、今後、デジタル化の波に乗れない中小企業は淘汰されていくと考え、NISSYOのバックヤードは、できるだけIT化して、効率化を図り、それによって生まれた時間を、顧客の新規開拓や社員教育などに充てる、すなわち、バックヤードのデジタル化によって利益を出しているということを説明しました。

これに続いて、久保さんは、従業員の採用に当たっては、能力の高さではなく、価値観、考え方を共有できるかどうかを重視しているということについて述べておられます。「多くの社長は、『能力のある人材』を求めます。しかし、私は、『能力のある人を採用すれば、会社は良くなる』とは考えていません。組織にとって大切なのは、社員の能力ではなく、『価値観を揃えること』です。当社は、能力よりも、価値観、考え方を共有できる人を採用しています。

考え方を共有できる人材であれば、理系文系も、性別も、国籍も不問です。2009年から新卒採用を始め(毎年、2~3人採用)、現在、全社員の3分の1が新卒入社です。12年間で退職した新卒社員は5名だけ。新卒定着率は80%以上です。かつて、ハローワークから、『御社のような町工場の場合は、中途採用を集める以外、人材を確保することはできない』と言われたことがあります。しかし、それでも、新卒採用に踏み切りました。なぜなら、『新しい人を採用しなければ、会社は活性化されない』からです。新卒社員は、前職の『色』がついていないため、当社の方針や仕事のやり方を、すぐに吸収してくれます」

私は、しばしば、「組織活動の狙いは、1+1+1>3にすること」と説明しています。すなわち、組織活動では、1人ではできないことができるようになるので、組織活動の成果は、1人ずつ活動した成果の合計よりも大きくなるということです。そして、経営者の役割は、組織活動の成果が大きくなるような働きかけをしたり、仕組みをつくったりすることです。そこで、久保さんは、組織の成果を高めるためには、能力が高い人よりも、価値観が同じ人を採用する方が、成果は大きくなると考えたのだと思います。もちろん、能力が高い人が従業員になることは望ましいと思います。

ただし、組織の成果を高める場合、能力と価値観のどちらを優先すべきかという点については、私も、久保さんと同じように、価値観を優先すべきだと考えています。そして、自社の業績があまりよくない会社の経営者の方が、「自社の業績がよくないのは、従業員の能力が低いからだ」とだけ考えるのであれば、経営者の役割を果たそうとしていないことになると思います。久保さんは、会社の業績は、まず、経営者に責任があり、だからこそ、自社が足並みを揃えた組織活動ができるよう、価値観が同じ人を採用しようとしたのだと、私は考えています。

2024/2/19 No.2623

いいなと思ったら応援しよう!