マイナスよりもプラスに目を向ける
[要旨]
コンサルタントの徳谷智史さんによれば、職場では、給料が低い、労働時間が長いといった不満の要因(衛生要因)を改善しても、また別の不満の要因が現れるので、これと合わせて、本人のキャリア志向に合った業務機会の提供、本人の成長志向に沿った人事異動など、モチベーションが高まる要因(動機づけ要因)の改善も行わなければならないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、徳谷さんによれば、集団において、ハイパフォーマンスを上げる上位2割と、そこそこ働いてそこそこのパフォーマンスを上げる中位6割と、あまり働かずパフォーマンスも低調な下位2割の、2:6:2に分かれるという「働きアリの法則」が働きますが、これへの対処法は、下位2割を排除しても、その後、また下位2割が発生してしまうことから、中位6割のパフォーマンスを高める働きかけをすることが得策ということについて説明しました。
これに続いて、徳谷さんは、衛生要因と動機づけ要因について述べておられます。「これは組織に限った話ではありませんが、マイナスに目を向けるより、プラスに目を向けた方が良いことは多々あります。組織論では、仕事に対する意欲に影響を及ぼす要因として、『衛生要因』と『動機づけ要因』の2つがあると言われます。『衛生要因』は『働く時間が長すぎる』、『給料が低いのが不満』というように、これがあると意欲がマイナスになること。
一方、『動機づけ要因』とは、『仕事にやりがいが持てる』、『自分の夢とつなげて働ける』というように、意欲がプラスになることです。注意したいのは、『衛生要因』、つまり、マイナスを解消したら、社員がやりがいを持って働くようになるかという、そうではなくて、今度は、別の不満が無限に出てきてしまうということです。例えば、労働時間が少し減ったとしたら、今度は、『給料が低い』、『休みがとりにくい』、『オフィスが狭くて働きにくい』というように、別の不満が出てくるのですね。
そうしたマイナスを1個ずつつぶしたとしても、期待以上の成果は望めません。それより、『動機づけ要因』を何か1つ増やした方が、モチベーションが高まり、やりがいを持って働けるようになります。わかりやすいのは、本人のキャリア志向に合った業務機会の提供、本人の成長志向に沿った人事異動などでしょうか。インパクトの大きいマイナスを優先していくことももちろん大切なことですが、それより先に、プラスの面に目を向けていく。これがうまくいく組織の鉄則です」(123ページ)
米国の心理学者のハーズバーグが提唱した「動機づけ-衛生理論」は広く知られていますが、多くの中小企業では、不満を減らすこと、すなわち、衛生要因の改善に注力する場合が多いと感じています。その理由として考えられることは、給与を高くする、労働時間を短縮する、職場環境を改善するという活動は、目に見える活動であり、効果もすぐ得られるからです。しかし、徳谷さんも述べておられるように、これらの改善活動をしても、従業員の方は別の不満を感じるので、抜本的な効果は得られません。
そこで、衛生要因の改善と同時に、動機づけ要因も改善しなければなりません。ところが、多くの中小企業では、動機づけ要因の改善は、なかなか実践されないようです。その理由は、衛生要因の改善と逆で、改善方法が目に見えにくく、また、効果がすぐに得ることができないからだと考えられます。しかし、これも徳谷さんがご指摘しておられるように、衛生要因の改善だけでは、従業員の方の満足を得ることは難しため、動機づけ要因の改善も行わなければなりません。
では、動機づけ要因の改善のための活動にはどのようなものがあるのかというと、徳谷さんは、「本人のキャリア志向に合った業務機会の提供」、「本人の成長志向に沿った人事異動」を例に挙げていますが、私は、キャリアパスの明確化や、ジョブローテーションの実施、ジョブディスクリプションの導入などをお薦めしています。ただ、繰り返しになりますが、これらの活動は難易度がやや高いことや、すぐには効果が得られないことから、中小企業での実施は後回しにされがちなので、他社より一歩抜きんでるためには、こういった活動に1日でも早く着手することが大切です。
2024/9/22 No.2839