事業計画で目標を可視化する
[要旨]
Bリーグチェアマンの島田慎二さんは、千葉ジェッツの社長時代に、経営理念に基づいて、日本一になるという目標を立てたそうです。しかし、漠然と日本一になるというだけでは、リアリティがないため、目標を達成するまでのプロセスを可視化して、目標が実現できる可能性を感じてもらうようにして、モチベーションを高めていたそうです。また、経営者にはそのような役割が重要ということです。
[本文]
今回も、Bリーグチェアマンの島田慎二さんのご著書、「オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか?」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、事業計画は、悲観的に、あらゆるリスクが発生することを想定して、それでも達成できるものを立て、その計画を達成してもらうことで、従業員のモチベーションやパフォーマンスを向上させることができるようになるということを説明しました。これに続いて、島田さんは、事業計画は目標を可視化する役割があるということについて説明しておられます。
「(経営理念に基づいて)『日本一になる』を目標に掲げると、まず、自分たちの現状、いわゆる現在地と、目指すところのギャップをきちんと把握しようとします。自分たちは何位で、日本一になるためには何チームを抜かなければならないのか?日本一のチームの人件費はいくらか?それが例えば3億円かけていて、うちは1億円しかかけていなければ、いい選手を向こうに取られてしまって当然です。そうであれば、選手の人件費をあと2億円かけられるクラブにならなければならない。
つまり、いまより2億円稼ぐ必要がある。でも、スタッフの給料やほかのコストも増えていくわけだから、換算すると、日本一になるには、売上を増やさなければいけない。じゃあ、3年以内に、いまの売上を3億円増やす。こういう流れを踏まえた上で、『日本一になる』と言うのであれば、説得力があります。ただ、漠然と『日本一になる』と言っているのでは、夢物語を語られている感じで、リアリティもないため、社員たちにも真剣味が出ないのです。(中略)
要は、経営とは、いかに可視化できるかということです。いかに伝わりやすい形で『見える化』できるかが重要だと、私は思っています。『もしかしたらできるかも?』、『この社長についていったらできるかも?』とスタッフに思わせられるかがすべてです。そう思ってもらえるかどうかは、社長のそれまでの実績、社長への信頼度、言っていることとやっていることの整合性がとれているか……など、日頃の社長の言動、行動が大きく影響することは言うまでもありません」(101ページ)
目標を達成するための活動を細分化し、それを事業計画に落とし込むと、目標達成までのプロセスが可視化できるので、そのことで日常の活動が研ぎ澄まされ、また、従業員の方のモチベーションになるという島田さんのご指摘も、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、このような作業は苦手な経営者の方が多いようです。というのも、「売上を増やせば会社は大きくなる」とか、「よい製品をつくれば、売上が増える」とだけ考えている方が多いようです。
もしろん、そういう方たちも、ライバルとは違った工夫は必要だと考えていると思いますが、では、そのために日常的な活動ではどういったことをすればよいのかと問われると、「ひたすらがんばる」というような抽象的な答えになることが多いうです。もうひとつの理由として、目標設定を行い、それを事業計画にブレークダウンし、目標達成のための活動を可視化するという活動そのものが、ある程度の労力を必要とすることが考えられます。中小企業の場合、前述のように、売上を増やす活動や、競争力の高い製品をつくることが経営者の最大の役割と考えられていることが多いこともあり、目標設定や事業計画の遂行管理の優先度は高くないと考えられているようです。
しかし、島田さんは、「経営とは、いかに可視化できるかということであり、いかに伝わりやすい形で『見える化』できるかが重要だ」と述べておられることからも分かる通り、事業計画による可視化を優先して行わなければなりません。なぜなら、経営者は事業活動を率いる役割があるからです。そして、労力がかかるとしても、現在は、競争力を高めるためには、このような、組織の効率化、生産性の向上以外は、改善の余地はほとんどなくなっているからです。
2023/7/22 No.2411