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組織に所属することに意味がある
[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、最近は、組織に所属することで自分らしさを発揮することができないと考えている方が増えているそうですが、その一方で、人が会社など、組織に属して働いていることで、人は多くの恩恵を受けているということに目を向ければ、その悩みはなくなるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、ネット上では必死に働くことを否定する考え方を示す人が多いそうですが、自社の事業を成功されば大きな雇用を生み、多くの人を豊かにすることができるので、その会社の経営者も人生の満足感が大きくなることから、現在は苦しくても懸命に仕事に取り組むという姿勢は重要であるということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、組織に所属して役割を果たすことの重要性について述べておられます。「『ありのままでいて、欲望のままに生きられたら、どんなにいいだろう……』誰しも、それを一度は考えたことがあるでしょう。『なぜ、学校に行かないといけないのか』『なぜ、働かないといけないのか』『なぜ、猫や島のように、何も考えずに過ごせないのか』それは、人間は社会を形成したからです。コミュニティを分けることが、革命だったのです。
暑いからと言って、裸で外を出歩くことはできません。ただ、家ではどうぞ、裸で過ごせばいい。自然の状態では、人は本能のままに生きます。一方で、その本能を制御し、社会に順応する能力が問われます。好きな人がいたら、いきなり抱きつくことはせず、順を追って仲良くなるはずです。しかし、最近では、コミュニティを分けることが否定されています。『自分らしさを発揮したい』、『何をやりたいかが大事だ』、そういうメッセージが、いつのまにか浸透しました。
すると、今度は、『わかりやすい個性を持っていない人』は価値がないようにとらえられてしまいます。『生きる意味を見いだせない』、『言われたことをやるのは機械だ』、『マニュアルに従うな』と、否定される流れになりました。さて、本当に残酷なのは、どちらでしょうか。私は、社会を肯定し、コミュニティを分けることを堂々と支持する立場です。1人1人が社会で機能を果たしているから、新幹線や飛行機は安全に時間どおりに運んでくれますし、雨風ではびくともしない家を建ててくれる。世の中には、いいサービスがたくさんあり、その恩恵を受け続けています。
そういう考えを持つことで、先ほどのような悩みがなくなります。『組織に所属して、役割を果たすこと』が何より意味のあることだからです。いっけん、時代とは逆のことを語っている、と批判されます。しかし、どちらが人のためなのでしょうか。『生きる意味を見いだせない』という悩みは、引退間際に考えればいい。『言われたことをやるのは機械だ』、『マニュアルに従うな』などと語るには、10年も20年も早すぎる。もっと先に、自分がやるベきことがあるはずです」(293ページ)
安藤さんがご指摘しておられるように、現在は、組織に加わることをネガティブに考えている人もいるようです。確かに、組織の一員になると、その構成員の個性は埋もれてちまいがちになります。私が銀行で働いていたときも、銀行職員というだけで融通の利かない人という印象を持たれていたと思います。一方で、「銀行職員だから…」という理由である程度の信用も得られ、20代であっても50代や60代の経営者の方と初対面であって容易にお話しできる機会が何度もありました。
このように、個性が埋もれたからといって、必ずしもデメリットばかりではありません。また、仮に、個性が埋もれることが好ましくないことだとしても、安藤さんは、交通機関や建設会社などが組織的な活動をしていることで、私たちは恩恵を受けているとご指摘しておられます。人は組織に所属して組織的な活動をすることで、個人的な活動や考え方を制約されることはありますが、それと同等かそれ以上の恩恵を受けていることも事実でしょう。それが、人間が社会的生き物であり、これまで発展してきた理由です。
繰り返しになりますが、いわゆるブラック企業による問題など、組織の力が強すぎることによって、その構成員である個人が犠牲になるという事実はありました。しかし、それは組織をマネジメントしている経営者のスキルが未熟であったことが根本的な原因と言えるでしょう。なぜなら、スキルが高い経営者が経営する会社は、会社という組織によって社会に貢献しています。したがって、組織のネガティブな面にのみ焦点をあてて組織を批判したり、組織に所属することを否定的に感じたりすることは、その人にとってもメリットはないと、私は考えています。
2025/1/16 No.2955