創業直後は支出が大きく収入が少ない
[要旨]
コンサルタントの徳谷智史さんによれば、創業直後の会社では、たくさんの固定費が必要な一方で、売上によって得られる利益はなかなか実現せず、この両者のずれによる資金不足をどのように埋めるかが重要になるということです。そこで、経営者が、しっかりとした資金計画を立て、それを管理していくことで、事業を安定化させなくてはならにということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社を立ち上げた直後の経営者は、資金繰に忙殺され、本来の会社の成長戦略のための活動ができなくなってしまうので、そうならないようにするには、特別な方法はなく、資金調達を前倒しに行うという正攻法しかないということについて説明しました。
これに続いて、徳谷さんは、創業後間もない会社が資金繰が苦しくなる要因は、支出と成長で時間軸が異なるからだということについて述べておられます。「そもそも利益が予想通り出ていない会社であれば、資金繰りの問題よりも、『利益が出ていない状況』を直視すべきです。まずは、ここから改善する必要があります。極めて単純に言えば、利益とは売上からコスト(費用)を引いた『余り』ですが、利益を出し続けるのは容易ではありません。
よりシンプルに言い換えると、利益を出す方法は、売上を持続的に増やし続けるか、費用を減らすか、どちらかです。費用には、変動費と固定費があります。変動費というのは、売上に応じて変わる費用で、固定費はオフィスや工場の賃料や固定で雇っている社員の人件費など、変わらない費用です。このバランスは難しく、会社によっていろいろな考え方があります。例えば、会社経営には『ゴーイング・コンサーン』という概念のように、会社が続いていくことに意味があるという考え方があります。
ただ、悩ましいことに、持続することばかり考えると、何もチャレンジできなくなってしまうのです。先行して人を雇わないとビジネスは大きくならないし、先行して設備投資もしないとそもそも売上が立ちません。逆に先行投資をせずに守りに入れば、事業の競争優位がなくなって、もはや投資もできないし、いい人も集められない。いずれ事業が停滞していくという悪循環に陥ります。そう考えると、先行してお金を使っていくべきかもしれませんが、それはそれで難しい。
人材を例に挙げると、採用した段階ではその人は1円も売上を生んでいない状況で、採用費もかかるし、人件費もかかります。『利益の範囲の中でしか費用は使わない』と決めれば、赤字にはなりにくいのですが、ビジネスが立ち上がり投資を回収するまでに時間がかかります。このあたりのマネジメントがうまくいかないと、利益が出ないと一方で、どんどんお金は減っていきます。
そのため、未来を見据えたスタートアップは、将来的な成長を前提にお金を調達して、事業を前進させます。言い換えれば、限られた『今』の原資をもとに、経営を成り立たせながら『中長期的な』売上成長を実現していかないといけないのです。リソースは減っていく一方なのに、未来の成長を加速させ続けないといけないというパラドックスの中で戦っているわけです。
経営原資のマネジメントと成長の実現という、『時間軸』が違う両者のつじつま合わせをしなければならないわけですから、これは非常に困難です。それに、赤字だったらお金がなくなるし、黒字だったら税金がかるし、どちらのケースでも資金繰りは大変です。したがって、どのゴールを目指すかを常に確認しながら、ゴール到達までにどの時期から資金を手当てすべきなのかも併せて計画しておく。進むべき方向を見据えた先手先手の舵取りが、社長には求められます」(45ページ)
起業したばかりの会社は、資金繰が極めて苦しい状況にあります。この会社の黎明期に会社から支払われる資金は、飛行機が離陸するときに使う燃料に似ています。すなわち、飛行機が離陸し、定められた高度まで上昇するときは、重い機体を推進させるために、多くの燃料を使います。しかし、いったん上昇すれば、気圧は低くなり、離陸するときよりも少ない燃料で進むことができます。
したがって、事業活動も、最初は多くの資金が必要になりますが、軌道に乗れば、資金の支出も少なくて済むようになります。ところが、飛行機と事業活動の大きな違いは、事業活動が進んだ方向が、必ずしも正しいとは限らないということです。もちろん、事業を始める時点では成功する見込みがあると考えているわけですが、実際に進めてみたら、予定とは違うということは珍しくありません。
特に、必要になる資金量が、当初予定よりも多くなるというときは、新たな手当てをするか、事業継続を諦めるかのどちらかにしなければなりません。では、どうすればよいのかというと、徳谷さんがご指摘しておられるように、「進むべき方向を見据えた先手先手の舵取りが、社長には求められる」という、正攻法しかありません。ところが、私も、黎明期の会社のから、資金繰改善の支援を依頼された経験から感じることは、ほとんどの会社は、資金管理が成行になっているということです。
そうなってしまう要因は、黎明期の会社の経営者は、目の前の仕事に忙殺されているということもありますが、会計リテラシーがあまり高くなく、資金計画が楽観的であったり、または、資金計画が無いに等しい状態であったりします。そのような状態では、銀行に追加融資を申し込もうとしても、将来の見通しを説明する材料がないため、申請書を作成する段階に至ることさえできません。
従って、(1)起業前に資金計画を作成する、(2)資金計画はワーストシナリオを想定して作成する、(3)資金の流れを把握できる体制をつくっておく、ということが必要です。特に、資金の流れを把握する体制づくりは重要です。なぜなら、資金不足が起きる事実は変わらないものの、その原因が分からなければ、将来の見通しが分からないからです。もし、支出の妥当性が分からないまま支出を続けていれば、事業が失敗する確率は高くなります。
そして、「起業するのに、ここまでやらなければならないのか?」と疑問を持つ経営者の方も少なくありません。しかし、それに対する回答は「Yes」です。事業活動を飛行機の操縦に例えれば、資金計画は目的地までの飛行計画であり、資金の流れを把握できる体制は操縦席にある計器にあたります。もし、資金計画も、資金の流れを把握できる体制もなければ、飛行計画もなく、計器もなしに、飛行機を操縦するようなものです。
2024/9/15 No.2832
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