現場100箇所、感動100箇所
[要旨]
松江市にある島根電工では、現場100箇所、感動100箇所」というスローガンを掲げています。これは、「100の現場があれば、100の感動が生まれるように」という意味であり、それを実践するために、お客さまと向き合って、心から信頼される人間になるよう、誠意を尽くすという経営者の意思が社内に浸透しているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんは、リッツカールトンホテルでは、顧客を満足させるだけでは足らず、顧客さえ気づかないニーズをつかんで提供することで感動を生み出すことを目指しているという事例を参考に、自社でも顧客を感動させることをスローガンにし、それを実践する組織である「おたすけ隊」をつくったということについて説明しました。
これに続いて、荒木さんは、感動を生み出すための組織である「おたすけ隊」が顧客を感動させることで、価格に関係なく、自社を選んでくれるようになると考えているということについて述べておられます。「あるとき、本社に、お客さまから電話がかかってきました。『おたすけ隊』で訪問した、ある家庭のご主人からです。何でも、うちの若い社員が、暑い中、外で作業をしていたので、『ひと休みして、冷たいお茶でもどうだ』と、声をかけたのだそうです。
すると、その社員は汗をふきふきお礼を言いながら、『少しでも早く取り付けた方がお客さまが助かると思うので、お気持ちだけいただきます』と、そのまま作業を続けたといいます。『今どきの若いものは遊んでばかりで、ろくな奴はいないと思っていましたが、お宅の社員のような真面目な青年もいるんですね』と、感心したようにご主人は話してくれました。そのことだけを伝えたくて、わざわざ電話をくれたそうです。こんな社員がいれば、お客さまは間違いなく、次からも当社に工事の依頼をしてくれるでしょう。感動すれば、お客さまは値段に関係なく、島根電工グループを選んでくれるに違いありません。
島根電工グループには、『現場100箇所、感動100箇所』という言葉があります。100の現場があれば、100の感動が生まれるように。そのために、お客さまと向き合って、心から信頼される人間になるよう、誠意を尽くす。島根電工グループは、常にそんな社員を育てようとしています。価格を下げても、サービスが悪ければ、お客さまはついてきません。期待を超える感動を生み出すサービスが提供できるかどうか、すべてはそこにかかっているのです」(27ページ)
顧客の感動を生み出すことは、自社の競争力が高めることになるということは、前回説明したとおりです。では、どのように感動を生み出すのかというと、島根電工では、「現場100箇所、感動100箇所」というスローガンを掲げているわけですが、私は、このスローガンが鍵になっていると考えています。島根電工では、電気設備工事業からサービス業へドメインチェンジを行い、さらに、顧客が気づいているニーズではなく、気づいていないニーズを提供し、感動を生み出そうとしているわけですが、一方で、「業種」としては建設業のままです。
従業員の方も、「自社は、建設業ではなくサービス業である」と、顕在意識の部分では分かっていても、業種が建設業であるわけですから、日頃から強く意識していなければ、サービス業として活動することは難しいと思います。そこで、「現場100箇所、感動100箇所」というスローガンを掲げることで、従業員の方が工事現場に行った時に、「自分はサービス業の会社の従業員として、これからお客さまに感動してもらえるように仕事をしよう」という気持ちを高めやすくなるのではないかと思います。
また、こういったスローガンは、経営者の意思の表れでもあります。もし、単に、「これから、わが社は、サービス業として、お客さまの感動を生み出そう」と呼びかけただけであれば、従業員の方は、経営者が本当にそう思っているのかどうか、真意を計りかねることになるかもしれません。ですから、スローガンを明示することは、経営者の方の意思の強さを示すことでもあり、このような、方針の伝え方の工夫は、組織的な活動を行う上では、とても重要です。
2024/2/29 No.2633
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