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[要旨]

岩田松雄さんは、ザ・ボディショップの社長時代に、MVPの従業員を選ぶ基準を、単に、業績などの定量的な面でなく、人格面や、部下育成のスキルなど、定性面の評価も取り入れていました。そうした評価を実践することは、すべての従業員に対して、経営者が望む従業員像がどのような人であるかというメッセージを送ることになります。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、顧客に適切なベネフィットを提供するためには、しっかりとしたSTP分析を必要がありますが、それを遂行するために、経営者は、市場リサーチ、テストマーケティング、PDCAの実践などに注力する必要があるということを説明しました。これに続いて、岩田さんは、経営者の大切な役割として、人事についてご説明しておられます。

「昇進、異動、評価など、人事は社内への最もパワフルなメッセージです。例えば、ザ・ボディショップでこんなことがありました。毎年、1番会社に貢献のあった人を、年間MVPとして表彰していました。例年、店舗で数字を1番伸ばした店長が選ばれることが多かったようです。しかし、私は、違った観点でMVPを選びました。例年の審査基準では、ある百貨店内のお店のA店長が選ばれたでしょう。小さなお店にかかわらず、売り上げ金額でも、対前年伸長率でも、数字的には文句ない実績でした。

その店長は、猛烈に働く頑張り屋さんでした。夜中の2時、3時でも仕事をしてしまう。店長が頑張るから、部下もやらざるをえない。そのせいで、スタッフが何人も倒れて、救急車で運ばれていたそうです。(中略)スタッフたちは、その店長の下で働くことを恐れていたそうです。私は、別のB店長をMVPに選びました。そのB店長は、お母さん的なとても穏やかな人でした。

数字もトップクラスの売り上げを上げていました。何よりも、彼女は、部下を育てるのがうまかった。当時、お店をどんどん出店したいたので、そのお店から新店の店長を、大勢、輩出していました。私は、そのことを高く評価し、B店長を年間MVPに選んだのです。これは、私から、社内へのメッセージでした。マネージャーとして、ただ売り上げを上げる、というだけではダメで、部下をしっかり育てることが重要な仕事であることを、メッセージとして伝えたかったのです。(151ページ)

この岩田さんのご指摘は、ほとんどの方がご賛同されると思います。しかし、私が、これまで中小企業の事業の改善をご支援してきた経験から感じることは、これを実践することは決して簡単ではないようです。その理由の1つは、どういった人を評価するのかを明確にすることは、少し労力が必要になります。まず、その会社に必要な人材は、会社の事業戦略が明確になっていなければなりません。なぜなら、事業戦略が明確でなければ、育成すべき人材像も明確にすることができないからです。したがって、事業戦略が明確になっていない会社は、そこから出発しなければならりません。

理由の2つめは、育成すべき人材像は、どうしても抽象的になりがちです。もちろん、100%具体的にすることはできませんが、なるべく多くの人が理解できるような人材像を明確にするには、労力や時間を要します。

理由の3つめは、人材の評価をすることにも、労力がかかります。もし、定量的な評価を行うだけでよいのであれば、その労力は、比較的に少なくてすみます。なぜなら、評価対象者によって得られた売上高や利益額など、客観的な数値だけで評価できるからです。でも、定性的な評価は、経営者(または、幹部職員)が、常に従業員の行動を注視していなければなりません。もちろん、定性評価は主観が入る余地が大きいので、すべての人が納得できる評価を行うことは難しい面もありますが、だからといって、あまり根拠のない評価を行ってしまえば、定性評価を行う意味がなくなってしまいます。

理由の4つめは、事業の成果、すなわち、利益などについての最終的な責任のある経営者から見れば、やはり、過程はどうであれ、売上や利益を得る従業員を高く評価してしまいたい気持ちに駆られることがあります。もちろん、それに耐えることができなければ、定性的な評価をすることができず、理想とする人材の育成をすることはできません。ここまで、定性的な評価を通した人材育成の困難さについて述べてきましたが、裏を返せば、これらの課題を乗り越えることができれば、ライバルと大きな差をつけることができることになります。

2023/6/7 No.2366

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