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馬車を10台並べても汽車にはならない

[要旨]

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、現在は、過去の成功体験を、明日以降の事業活動に活かすことができない時代であり、そのような中で事業活動を奏功させるためには、現状を肯定する前提での「改善」では不十分なので、現状の否定を前提とする「革新」を起こしながら経営に臨む必要があるということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんは、かつて、J&J日本法人の社長時代に、優秀な部長を後継者にしようと考え、役員に引き上げたものの、その部下は、他人の欠点ばかりに目が向いてしまい、認めることができなかったことから、自分も他人から認められず、数年で辞めてしまったというご経験があったそうですが、この経験から、新さんは、後継者候補には、部長は社長の視点と持つというような、1つ上の視点を持つことが欠かせないと考えるようになったということについて説明しました。

これに続いて、新さんは、ビジネスパーソンは、改善と革新を混同しないようにすることが望ましいということについて、述べておられます。「日進月歩の世の中、今日と同じ明日はない。明日も今日と同じで、明後日は明日と同じ日が続くと考えるのは、愚か者であり、敗者である。周囲が、日々、新たになるからには、人も企業も変化しなければ、勝者となれないのは必定だ。『将来の成功をを妨げる最大の敵は過去の成功である』という。

英語には、“Revenge of Success”(成功の復讐)という言葉もある。昨日はうまくいったからといって、今日も、明日もうまくいくとは限らない。それをうまくいくものと勘違いしていては、人も企業も、後追い人(Laggard)になってしまう。生きることさえおぼつかなくなる。

変化には2つある。1つは改善(Improvement)である。もう1つは革新(Innovation)だ。この改善と革新は意味が異なる。(中略)改善は、現状肯定がが前提である。現状を基本的に肯定した上で、そこに手を加え、より質のよい、これまで以上の状況を生み出すのが改善だ。そこには連続性がある。一方、革新とは現状否定から始まる。現状を否定し、現状とは異なる新しいステージ、新しい次元に移って、これまでにない結果を出すのが革新である。そこには断続性がある。ガラガラポンの次元である。

経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターは、『馬車を10台並べたてても汽車にはならない』と言っている。馬車を連結すれば、確かに馬力は高まるだろうが、それは改善である。馬車を見限って貴社を導入することがイノベーション、すなわち革新ということだ。革新の肝は、『新結合』である。すでに存在するものの組み合わせにより、新しいものを生むことである。イノベーションには、技術革新、組織革新、システム革新、社会革新など、さまざまあるが、特に重要なのは、人の意識革新である。すべての革新の原点には意識革新がある」(42ページ)

引用部分を少し補足すると、シュンペーターのいう「新結合」の事例としては、Apple社のiPhoneが挙げられると思います。すなわち、音楽などを再生するiPodに携帯電話の機能を結合したものがiPhoneですが、その後、iPhoneは爆発的な人気商品となり、今は、携帯電話は、単独機能のものはなくなってしまい、iPhoneを始めとしたスマートフォンだけとなっています。これが新結合によるイノベーションです。

話を本題に戻すと、VUCA時代の事業活動は、現状肯定より現状否定の考え方で臨む方が望ましいということは、ほとんどの方がご理解されると思います。ところが、顕在意識では現状否定が望ましいとわかっていても、潜在意識では、現状維持バイアスにより、なかなか現状否定ができないのが実情だと思います。例えば、シダックスがカラオケ事業から撤退した要因は、1人でカラオケを利用するという需要を捉えることができなかったことがそのひとつと言われています。これも、「成功の復讐」の一つの例と言えるのではないでしょうか?

もうひとつ、別の会社の例を挙げると、東日本旅客鉄道(JR東日本)が2018年に発表した経営ビジョンでは、会社発足時の運輸と非運輸の売上比率は9:1でしたが、2017年は7:3になっており、さらにこれを、2027年には6:4にするということです。同社はしばらくは鉄道会社のままであると言えますが、非運輸に関する売上が4割になるということは、同社の経営環境は、過去の成功体験を活かすことができにくくなっていると言えます。

したがって、これからの経営者に求められる資質は、過去の成功の経験をこれからの事業に活かす能力ではなく、過去の成功を活かすことができない経営環境に、どのように対処していくかという管理能力だと言えるでしょう。そうであれば、経営者の方は、ますます、マネジメントに軸足をおかなければならないということになります。

2024/10/17 No.2864

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