Riverside - ID.Entity (2023)
AIの筆頭格ChatGPTまで出現して世間を騒がせている現在の世の中、それよりも一足先にそんな世界になってしまったら人間は皆考える事を止めてしまうのではないか、考えないでも良い世界になってしまうのではないか、もっと自身の主体性を持って個人を確立する努力をしないと危険だ、とのテーマをモチーフにして仕上げてきたポーランドプログレッシブ・ロックバンドの雄、Riversideの2023年作「ID.Entity」だが、そのテーマのせいか、アルバムを冒頭から聴いてみると、随分と明るいと言うか突き抜けた感のあるデジタルビートと雰囲気は当然Riverside風だが、キャッチーでヒットチャートにでも出てきそうな曲調にやや驚かされる。ギタリストを失って悲しみの極地に陥っていたバンドの姿からここまで明るくキャッチーになり帰って来たことをありがたく思うべきなのか、支持も評価もそれぞれ分かれるとは思うが、個人的には人間的にこういった明るいサウンドが出せてくるようになるバンドの姿は良かったと思っている。
そんな安心感から続けられる2曲目の「Landmine Blast」では往年のRiverside的変拍子プログレッシブヘヴィロックの展開となり、バンドの変態性の健在感が証明されているから楽しめる。こういう曲がさらりとアルバムに入ってくるスタイルこそがRiversideの本質であろうし、いつまでも鬱屈で重々しい姿ばかりを出していく必要もなかろう。ただ、こういった曲でその存在感を知らしめてくれればリスナーとしてもありがたいし、この曲も以前に比べれば全然プログレ度もパンチも足りない気がするが、一方ではその鬱屈とした空気感だけでなく、そこから洗練されて出来上がった新たなるスタイルとして捉える事すら出来る。以降の楽曲でもこれまでの焼き直しからはちょっと逸脱して、やや時代を取り入れたデジタル感は相変わらずながらもどれもこれも洗練されている音に仕上がっているから聴き易さは増している。
とは言え、最後まで聴いてみると、単純に相変わらずだな、凄いな、やっぱりとんでもないバンドだ、と感心してしまう作品なので、これもまた何度も何度も聴いてしまう色気を持っている。多分彼らはそこまでプログレッシブ・ロックバンドである事に拘らなかった作品だったのかもしれない。昔から数多くのプログレバンドが途中から別バンドのような音になっていったように、Riversideもどこかでそのタイミングが来る時を待っている面もあるだろうか。そこまでではないにしても異なる作風でアイデンティティを主張しようとするのかもしれない。それでも本質が変わらなければ問題作として市場に投じてもユニークな気がするが、今作はその手前のひとつの実験的作品にも捉えられるだろうか、それでもカッコ良いアルバムなので痺れまくっているが。
好きなロックをひたすら聴いて書いているだけながらも、聴くための出費も多くなりがちなコレクターの性は皆様もご承知の通り、少しでも応援していただければ大感謝です♪