絶望からイノベーションへ!窮地に陥ったからこそ創造力を発揮できる3つの理由
1.はじめに
燃料油需要の低迷や油外収益の伸び悩みなど、厳しい状況に直面しているガソリンスタンドは少なくありません。かつては活気に満ち溢れていても、今では閑散としているケースもあり、その未来は不透明な状況です。しかし、そのような窮地に陥っても復活する企業もあります。
今回の記事では、ブームの終焉、取引先の冷遇、火災、リーマンショックといった様々な困難に見舞われたある製造業が、それまでとは全く異なる事業で復活した事例を通じ、なぜそのような創造性を発揮できたのか、心理学の研究結果を踏まえて検証していきます。
2.窮地を脱出した製造業の事例:模擬臓器開発への軌跡
同社は、医師が手術のトレーニングに使う模擬臓器を開発しており、世界の医療機器製造業上位10社のうち半数と取引しています。しかし、かつては金属の加工やプラモデルのタイヤの製造を下請けとして行う企業でした。
最盛期には、売上高の約9割が当時ブームだったミニ四駆のタイヤがもたらしていましたが、ブームに陰りが見え始めます。そんな中、ミニ四駆用タイヤの発注が大幅に減少しました。
それまでタイヤ製造の下請け仕事が2,000万円以上あったものが、翌月10万円に減ったのです。さらに、火災が発生し、自社の社屋が全焼するという不幸にも見舞われました。これにリーマンショックが追い打ちをかけます。
何とかしたいと考えた経営者は、発注先の元請け企業へ向かい、共同で新事業の展開を模索しようと提案しました。ですが、担当者から、そのような必要はない、君たちは黙って製造だけしてくれていればいい、売るのは我々に任せろといった言葉を投げかけられます。
今後の取引は見込めないと判断した同社は、自社製品の開発に取組むこととし、ラジコン事業を手掛けましたが、芽が出ません。
そんなある日、同社経営者は医療機器メーカーに勤務する友人から、医師が手術の練習に使う模擬臓器は高価な樹脂製や、衛生・倫理面の負荷が大きい豚の臓器が主流であり、多くの医療機関がコスト削減に苦慮していることを聞きます。
「高品質で低価格な模擬臓器があれば、多くの医療機関で購入してもらえるのではないか」と思った経営者は早速、こんにゃく粉を使った模擬臓器の開発に着手します。試行錯誤を重ねること2年、ついに手術の練習に使える高品質な模擬臓器を開発することに成功しました。この模擬臓器は、従来の樹脂製や豚の臓器製のものと比べて、格安でしかもリアルな感触を実現しており、多くの医療機関から高い評価を得ています。
この経験は、絶望的な状況こそが、創造的なアイデアを生み出す原動力となることを示しています。絶望的な状況に至って、なぜ人は創造的なアイデアを生み出せるのでしょうか。
3.窮地が創造性を刺激する3つのメカニズム
イリノイ大学シカゴ校の名誉教授であり、著名な心理学者ソニア・リュビノフスキー氏の研究で、困難な状況に置かれた人々は、より創造的な問題解決能力を発揮する傾向があることがわかりました。
この研究では、以下に示した窮地の状況下での創造的な思考を促す3つの要因が明らかにされています。
(1)目標への集中
窮地に立たされた時、人は自然と目標達成への強い意志を持ち始めます。雑念が削ぎ落とされ、課題の本質を見極めやすくなり、創造的な思考が促進されます。リュビノフスキー氏によると、目標への集中は、以下のメカニズムによって創造性を高めるとしています。
集中力の向上:目標に集中することで、周囲の雑音を排除し、情報処理能力を高めることができます。
問題の本質を見極める:目標を達成するために必要な情報に焦点を絞り、本質を見抜く力が養われます。
固定観念からの解放:目標達成のために最適な方法を模索する過程で、既存の枠にとらわれず、柔軟な思考が生まれやすくなります。
(2)困難な問題への挑戦
困難を乗り越えるために、人は自然と新しいアイデアや解決策を探し始めます。既存の枠にとらわれず、柔軟な思考が生まれやすくなります。リュビノフスキー氏によると、困難な問題への挑戦は、以下のメカニズムによって創造性を高めます。
新たな視点:困難な状況を乗り越えるために、これまでとは異なる視点から物事を捉えるようになります。
多角的な思考:複数の解決策を検討し、最適な方法を導き出す多角的な思考力が養われます。
諦めない精神:困難に直面しても諦めずに挑戦し続けることで、粘り強さと創造性を高めることができます。
(3)状況の変化による創造性の向上
窮地に陥ることで、これまで当たり前だったことが覆され、新たな視点から物事を見つめるようになります。固定観念が打破され、斬新なアイデアが浮かびやすくなります。リュビノフスキー氏によると、状況の変化は、以下のメカニズムによって創造性を高めます。
固定観念からの解放:これまでのやり方や考え方に固執せず、新たな可能性を探求するようになります。
柔軟な思考:状況の変化に柔軟に対応し、最適な方法を導き出す柔軟な思考力が養われます。
新たなアイデアの発見:固定観念から解放されることで、これまで思いもよらなかったような斬新なアイデアが浮かびやすくなります。
リュビノフスキー氏の研究は、窮地に陥ることは必ずしもネガティブな出来事ではなく、むしろ創造性を刺激し、新しいアイデアを生み出すきっかけとなる可能性があることを示唆しています。
4.まとめ
燃料油需要の低迷や油外収益の伸び悩みなど、厳しい状況に直面しているガソリンスタンドは少なくありません。しかし、このような状況はガソリンスタンドに限らず、多くの企業が経験することです。
今回の記事では、ある製造業が窮地を脱出した事例を基に、なぜ困難な状況に置かれた時こそ創造的な発想が生まれるのかを解説しました。困難に直面した時こそ、諦めずにチャレンジすることで、新たな活路を見出すことができることを常に意識したいものです。
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