ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ/ザ・ビートルズ With A Little Help From My Friends / The Beatles
仕事で付き合いのあったデザイナーのM内君が「iPod」とやらを買ったと電話してきた。
「面白いから見においで」
「おー行く行く」
初めて見るiPodとやらは、まっ白くて厚めのケースの真ん中に丸いスイッチ(スクロールホイール)が付いていて、いかにもアップルというデザインの製品だった。
M内君の作業デスクに誇らしげに鎮座ましましていた。
当時からデザイナーと医療関係者はMacintoshのPCを使っていた。
初期のiPodはMacintoshにしか接続できなかったのだ。
ところが俺は当時その画期的な製品の「画期的さ」がまったく理解できなかった。
「MP3という音声ファイルの圧縮技術を利用していて、この中にハードディスクが入っていて何千曲も曲を保存することができるんだよ」とM内君は得意げに説明してくれるが、そもそも家にCDやレコードがたくさんあって、何千曲も常に保有している身からするとそれほど画期的でもなく、いまひとつピンと来なかった。
聴きたい音楽をプレイヤーにかければいいじゃん、と。
iPod初号機のスペックは10GBの容量で5万円ぐらいだったと思う。
そんなにお金出すならCD買ったほうがいいじゃん。
ただ、スクロールホイールの手触りだけは特筆もので、回すときの何とも言えないスベり具合と言い、「チキチキチキ」というスクロール音がなかなかに愛おしさを感じさせる作りではあった。
何度も指を滑らせて唸った。
滑らかだなー。
そこはさすがアップル。
でもでもでも。
サージェント・ペパーズの1曲目「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」と2曲目の「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」の間は曲間ナシで続いて欲しいのだが、ブツッと一度音が途切れる。
「えええええええええええ?おいおい、M内君、これはダメでしょ。絶対繋がってなきゃダメな曲」
「いやいや、俺君、1曲づつファイルを読み込むのだから仕方ないんだよ」
「いーや、俺は許すわけにはいかん」
M内君
「実は僕の好きな佐野元春の曲も切れちゃうんだよね」
などとさんざんあーだこーだ言い合った。
当時は許せなかったが、今ではまったく気にならない。
大人になったから?
いやいや、違います。
俺は大人になんぞなっていない(笑)
なぜなら「シャッフル」という聴き方が常態化したから。
まさか世の中ほとんどの人が音声ファイルで音楽を聴くことになろうとは、この時は知る由もなかったのである。
俺がMP3で音楽をシャッフルして聴くようになるには「iPod Shuffle」の登場まで数年待たなければならなかった。