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ラヴ・ガン/キッス Love Gun / KISS

ある日、英語の授業中に斜め前の席を見ると、女の子がチョッパーベース(今でいうスラップ)の手振りをしていた。

むむ。この子ベース弾けるのかな?

授業が終わり、I川君にこのことを話すと、その子とは中学の時に一緒に文化祭でバンドをやった仲間だということで、バンドに誘おうと思っていたということだった。
F原さんというらしい。

うおおおおおおおおおおおおっ!
知り合いなのか、よしちょうどいい、じゃあ次の休み時間に彼女の教室に一緒に行って誘ってみようということになった。

恐る恐る教室に入って行って、I川君が口火を切って話し始めた。
教室の雰囲気は完全アウェイだからね。
何を話したかよく覚えていないが、バンドに入るのはOKだった。
ベースを弾いてもらいたいと言うと、お姉ちゃんのベースがあるから大丈夫だよと答えた。

えええええええええええ?
家にベースがある人なんているんだ。

妙に感心したのを覚えている。
しかも家の倉庫みたいな使っていない部屋でバンドの練習もできるということだった。
当時は練習スタジオなんて大きな町に行かないとなかったし、お金を払って借りるという概念がないので、他のバンドもみんな家の倉庫やお蔵(!)なんかで練習したのだ。
ライブも家のガレージでやったり、公園の小さな野外音楽堂なんかでやったりしていた。

いやまてよ、今となってはすごくカッコよくないか?

まあいいや、とにかくF原さんちは道路が二股に分かれる三角形のところに家があったので音を出してもあまり近所の迷惑にならなかったようだ。
ときどき車が飛び込んできたそうだが。
とはいえ親御さんは「若い子たちがやることだから大目に見てやってほしい」とご近所に謝って廻っていたらしい。
寛大な時代だった。

話を聞いていくと、どうやら2つ上のお姉ちゃんもバンドをやっていて、だから機材が家にあるということらしかった。
これは渡りに船だ。
ぜひそこで練習させてほしいとお願いした。
OKだが条件があるという。
F原さんはキッスのエース・フレーリーのファンだというので、

「ラヴ・ガン」をレパートリーに入れてほしい。

ということだった。
う~ん、どうしよう。
でも背に腹は替えられない。
渋々OKした。
練習部屋を使わせてもらえる誘惑には勝てない。

ツエッペリンのコピーバンドのつもりだったが、キッスもやることになり、ますますバンドの方向性は怪しいものになっていった。

しょうがないよね、田舎だから。

メンバーが揃ったのだって奇跡みたいなもんだ。
でもこれでバンドメンバーは5人になって全部のパートが揃った。
嬉しかった。
それから月に1回ぐらい彼女の家に集まってバンドの練習をした。

気が狂いそうになるほど楽しかった。


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