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#2-1 リフレクティブな学びの場づくりを目指して【MAWARUリフレクション:上條先生#1】

みなさんこんにちは。MAWARUリフレクション事務局です。今回は、全10回の「リフレクションを対話的に再構成する~研究者と実践者でリフレクションを紡ぎなおす~」イベントの第2弾、10月1日(土)に開催した第2回目イベントの様子をお伝えします。

第2回目は、東北福祉大学の上條晴夫先生にゲスト講師としてお越しいただきました。上條先生は、長年教師教育に携わられる中で、教育現場の課題を踏まえた授業の開発教育や、教師のリフレクション実践について多数のワークショップ開催や本の執筆をなさってこられた、リフレクション実践研究者の草分け的存在です。

今回のイベントでは、参加者が上條先生のご著書「リフレクションを学ぶ!リフレクションで学ぶ!」(学事出版、2021)を読みこんで参加しました。ここからは、イベントのPartⅠとして、ご著書についての上條先生からのレクチャーをお届けします。なお、本シリーズはPodcastでも配信しています。ラジオのように音声でも聴くことができますのでぜひお聞きください。

それでは、上條先生のレクチャーパートです、どうぞ!

リフレクティブな学びの場づくり

私は、このイベントに向けて考えてきたことが2つあります。1つは、私は実は本を書いてから「リフレクション」という言葉を使うのを辞めたんですね。その代わりに、「リフレクティブな学びの場づくり」ということを工夫するようになっています。「リフレクション」というものがあって、それを教えるというよりも、リフレクティブな学びの場を作るということの方が、より大事なんじゃないかと考えています。もう一つは、昨日の大学院の授業のテーマが「リフレクションの理論と実践」でした。ある大学院生が「リフレクションと愚痴が似ている」という話をして、似てますよねというので、「そうだね、似てるね」と。実感を語るというところではよく似ている。じゃ、どこが違うのかというと、リフレクションの場合にはそこに創造的な解決に向けた手がかりを見つけ出そうという意思、意図があるのが違いかなと考えています。

人間中心主義の哲学

この「人間中心主義で行こう!」というスライドのタイトルですが、リフレクションを考える時に、誰か偉い人がいて、この人の考え方をアドバイスとして与えるようなこととは異なるんですね。例えば、カウンセリングはそもそも人間中心主義で、誰か偉い人がアドバイスするという考え方を、カール・ロジャース(※1)がひっくり返した。一番知っているのは当事者だから、当事者の頭の中を整理するために来談者中心主義でいったらいいんじゃないかと考えたんですね。通常この世の中というのは、専門家という偉い人がいて、その人がお医者さんのように診断し、処方もするというのが当たり前だったのが、それに対して、困っている人が一番よく知っているはずだから、その人の考え方をよく聴いたらいいんじゃないのかということです。リフレクティブな学びの場、あるいはリフレクションというのは、この人間中心主義の哲学の上に乗っているという風に、私は改めて考えています。

※1 カール・ロジャース:来談者中心療法(Client-Centered Therapy)の創始者であり、カウンセリングを受ける人のことを「患者」(Patient)ではなく「クライエント」(Client)と称した最初の人物。従来のカウンセリング理論に疑問を感じ、クライエントの自己実現を目的とする非指示的カウンセリングを提唱、後に来談者中心療法、人間中心主義(Person-Centered Approach)へと発展する。

プロフェッショナルを育てる研修

例えば、私の専門として、プロフェッショナルを育てるということを大きな課題にしています。教師教育もそうですが、今は認知症介護指導者のグループで、認知症に関わる人たちを育成するリーダーの方たちと、月2回ほどリフレクティブな学びの場で一緒に勉強させてもらっています。私はプロフェッショナルを育てる時、従来型のプロフェッショナル研修の作り方と、リフレクティブな学びの場の作り方というのは違うのではないかと考えています。従来のプロフェッショナル研修の考え方は、集合研修、とにかく集まって、そこで何かを行う。あとは先輩の熱血指導みたいなものがあるのが通例だったのに対して、リフレクティブな学びによる研修の考え方は、体験学習という経験学習サイクルみたいなものを背景にしながら、部分的にフィードバックをしていきます。私は、従来型のプロフェッショナル研修の考え方がもう潰えて、リフレクティブな学びの研修の考え方に代わった、という風に最近は言わず、それぞれに効果はあって両方とも必要だよね、という言い方をしています。ただ、やはり従来型の研修だけだと足りないとは思っていて、リフレクティブな学びの研修がどこか重要なものとして入ってくる必要があるなと考えています。

試行してリフレクションにより学ぶことで、前人未到の仕事ができる

また、反省とリフレクションを区別する必要があるなと考えています。正解のある仕事については、沢山反省することで正解に近づくことができます。昨日大学院生と話していて、例えば高校で教科教育をやろうとした場合にも、答えが決まっていてテストで判断されるから、そこの場にリフレクションはいらなくなるのではないか、という話をしていました。答えが決まっているならば、反省して正解に近づくというサイクルに追い込んでいくことが効果的で、それしかないよねと。また、昨日の大学院の講義テーマは「リフレクションの必要性」でした。小学校の間はまだいいのですが、中高になった時に、現実問題としてなかなかリフレクションって難しいよね、という話を大学院生とガチでしていました。ただ、世の中には正解がある仕事に対して、前人未到の仕事もあるはずなんですね。教育の仕事、それから対人支援の仕事の大半はここに当たるはずだと思うんです。カウンセリングもそうだし、認知症介護の人の仕事もそうだし、授業づくりもそうだという風に考えていて、これまで体験していないような領域に入っていく仕事というのがある。その場合は、リフレクションによって何かの気づきを得ようとした場合に、試行してみることがすごく必要なんですね。まず試してみる。新しいことにチャレンジして、それをリフレクションで振り返ってみるというのが重要です。やっているうちにリフレクションが重く、試す要素が小さくなると、このあたりが弱くなるという風に考えていて、試行してみてリフレクションによって学ぶというのが、前人未到の仕事をするために重要ではないかなと考えています。

コルトハーヘンのALACTモデルの手順化:①試行②列挙③択一④工夫(開発/発掘)

ここから先が、本の中に書いたことの2つなのですが、1つは協働的なリフレクションの手順を考えたんですね。ベースになっているのは、フレット・コルトハーヘンのALACTモデル(※2)なんですが、それを私は手順化して易しい日本語に置き換えました。まず試しで実験授業、研究授業のようなことをする。このことを「①試行(Action)」と呼びます。次に、体験中の気づきを箇条書きします。これは、ALACTモデルではあるポジションを持っているのですが、僕の言い方だと「②列挙(Looking back on the action)」と言います。気づいたことを、1個とか2個とか3個にしないで、4個とか10個とか15個とかを数え上げ、たくさん箇条書きにするというフェイズが、大事なポイントの2つ目です。3つ目はそうやって列挙されたものを同時把握しきれないので、どれが一番大事かを考えてみる、これを「③択一(Awareness of essential aspects)」と呼んでいます。最後に、その択一したものを、「④工夫(開発/発掘)(Creating alternative methods of action)」してみる。それと似たこととして、本を読んだり人の話を聞いたりして、開発/発掘できないかと工夫してみる。これをもとに、新しい試行(Trial)をする。これがサイクルするわけです。経験的にサイクルしていくという風に考える。手順化をしてみることにより、その場その場でリフレクションを促すことよりも、精度が上がった、効果があがったという風に考えています。ALACTモデルの手順化についてが、前半戦です。

※2 ALACTモデル:省察の理想的なプロセスを示したモデルのこと。


図1 ALACTモデル (コルトハーヘン,2001/2010)

協働的なリフレクションのコツ:仕組み化、リフレクションの密度、聴く人の存在

後半戦なんですけれど、協働的なリフレクションのコツという言い方で敢えてスライドに書いたのですが、「組織の仕組み(習慣)にすると根付きます」というのが一番です。1回1回リフレクションをやってくださいというよりも、組織の中に、学級だったりゼミだったり、企業組織の中に仕組みとして根付かせるようにした方が、明らかに根付いていくことに気づき、実際にやりました。コロナが始まって、オンライン授業をオンラインで学ぶ会というのを立ち上げたんですね。その時に、リフレクションを仕組みとして組み込むようにお願いして、了承したところでやってもらい、明らかにリフレクションの考え方、やり方が一つ一つ入っていくことがわかりました。リフレクションをその都度やるよりも、習慣化されるように、組織の中に仕組み化していくことが大事だということです。
それから、リフレクションには密度が必要なので、1週間に1回なのか2週間に1回なのか、1か月に1回なのかによって、リフレクションの効果は大きく違ってくると思っています。例えば、僕が大学以外の人と関わる時に、1か月に1回くらいだと弱いなと思っているところがあって、2週間に1回くらいできないかなとか、体力が無限にあれば、1週間に1回がやはりいいな、というようなことを考えています。リフレクションの密度ということを考えずに、リフレクションすれば効果が上がるというのは、ジャッジとしてちょっと弱いと思っていて、頻度をシステムの中に織り込むことが、ポイントの1つになってくるだろうなと思っています。
そして、リフレクションを聴く人の存在というのは、やはり効果があると思っています。聴くというのが、話すということよりも圧倒的に大事で、相手の実感を実感として聴き取れるように聴くということですね。これはカウンセリングでの傾聴ということだと思うのですが、相手の表情を見ながら、相手が実感していることを自分ごととして聴くことによって、相手の個人としてのリフレクションを促していくし、普段のリフレクションも促していくと考えています。ですので、この全体が仕組化されるようにリフレクションを組み立てていくことが、プログラムを作っていくときには重要ではないかなと考えています。

まとめ

以上、上條先生からのレクチャーをお伝えしました。上條先生のお話には聴き手への配慮が至る所に溢れていて、聴きながらとても引き込まれていく内容でした。(よろしければぜひ、Podcastもお聞きください!)リフレクションの実践に徹底的にこだわってこられた上條先生だからこそ、「リフレクティブな学びの場づくり」や、ALACTモデルの手順化など、私たちの実践を変えてくれそうな概念を生み出し、また素晴らしい実践の取り組みを重ねてこられたのだなと感じました。

次回からは、参加者から寄せられた質問や実践の問題意識に対する上條先生の回答や、参加者と講師のディスカッションの様子をお届けしていきます。どうぞお楽しみに!

【上條先生イベントの記事】
# 2 -1 リフレクティブな学びの場づくりを目指して(本記事)
# 2 -2 質疑応答とディスカッション(1)
# 2 -3 質疑応答とディスカッション(2)
# 2 -4 質疑応答とディスカッション(3)

(MAWARUリフレクションメンバー 執筆:生井)

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