リウノタマシイ

文芸をのろのろと志しています。2年前、代謝系希少難病に罹患したなどのためブログ作成やTwitterなどのSNS に思い至り、こちらには短編、詩、手記などを残していくつもりです。若年時のものもあります。

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【小説】 おうごんのみどりご 1、2

一、  昭和時代末期のある休日、淋しいマチノリウは繁華街へやって来て、うろっとしたのである。そろそろ夕方になって、足もくたくたになってきた、それでもまだちょっと、うろっとしたりなかったのである。  ターミナル近くの、新歌舞伎座の近くの、パチンコ屋へ入って自動販売機でカップコーヒーを求めてすすりながらおもてへ出た。劇場のまえの広い歩道のわきで座ってのみだした。人通りは多くにぎやか、そこもちょっと広場のようになっているし、いっぷくにはころあいにまあここちよいのであった。    

    • 詩 『うたの幸いの』

      ここであなたに 会えたとは なんてせつない 幸福でしょう   ここであなたと 呼べるのは なんてやるせぬ 不思議でしょう   その目を見させて くださいな そのきれいな こころねを 最後にさわらせて くださいな   ここであなたに 見つめられ あなたの個性に いだかれて   ここでわたしは 夢となる 夢のなかの 愛となる   透きとおり なお透きとおり あなたのわたしに 透きとおり あなたのふるえを 透きとおり わたしは深く にじみゆく   天よ たのむから うたという鈴の音

      • 詩 『…手足散り…ひかり』

        そこには 花が咲いていて 私や殺した人もみんないて 病のいたみは薄らいで 幸せかどうかを 泣いてすがる 人もなく そこには 君が咲いていて いつだって何かさわやかな かぐわしい寂しさを 降らせて 去った …手足 散り …ひかり …手足頭 散り …ひかり

        • (短編小説) きりぎし 【統合・改稿版】

          (昭和時代 或る夏の夜の夢) 1 おろかな宵  ごく簡単に、すすめよう。  去年の夏といえば、梅雨に雨が降らなかったり、と思ったらまた、大雨にもなったりの、へんてこな夏であったが、これは、その時分の話である。(と、男は数十年前、筆者に語り出した。)  私は六月に学校を放り出されていたくせに、学生だといつわって、一カ月ほどアルバイトをした。奇矯な精神の時期でもあって、仕事のことなどまるきり頭にはなく、といって全然さぼりもしなかったから、職場のバイト仲間や若い社員などに

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        記事

          きりぎし(短編小説)4/4

          (昭和世代 或る夏の夜の夢)  長く生々しい無気味な夢からやっと私は逃れ出た。  我に返ると、川沿いの停留場のベンチへ横になっていた。空も晴れ上がっているし、バスを待つらしい数人の男女も、なごやかな談笑の最中で、そこには田舎特有の大らかな空気が醸されていた。妙齢の女性もいたが、おかまいなしに、私は泥まみれの衣服を着替えると、出発する準備にとりかかった。準備といっても、荷をくくり、ジュースを買って飲んだだけである。バイクにまたがり、すぐに降りた。そうして、のろくさと車を押し

          きりぎし(短編小説)4/4

          きりぎし(短編小説)3/4

          (昭和世代 或る夏の夜の夢)    朝だとわかるやいなや、羞恥に似た嫌悪感がつま先まで広がり、全身が麻痺したようにしばらくは動けなかった。半身を起こし、周囲を見ると原因がわかった。  バスを待つ客が数人いて、こちらをチラチラのぞいていた。私の姿はかなり不潔だった。早いこと立ち退きたかった。それにしても、この吐き気はどうだ。生肉の臭気がする。  峰には雲がひくく迫り、川べりの道端の人はよそよそしかった。  小一時間、手押しで下り、モーターサイクル店に着いた。店先で、そこの主

          きりぎし(短編小説)3/4

          きりぎし(短編小説)2/4

          (昭和世代 或る夏の夜の夢) 私は怖気づきながらも避難のすべを考えた。付近の集落まではそう遠くないはずだし、とうぜん上り坂より下り坂を選んだ。  走り出すと再び体はおどりあがり、もう、こけないようにすることしか頭にはなくなった。幾ばくも走らないうちに、忌まわしい鎖は外れてからまり、たちまち後輪はロックされてスリップし、エンジンがぷすっぷすっと断続的の吐息とともに切れる。そのつど悪路へ下車しなければならなかった。    何回か繰り返してもまだ、やっとあの陥没のあたりだった。

          きりぎし(短編小説)2/4

          きりぎし(短編小説)1/4

          (昭和世代 或る夏の夜の夢)  ごく簡単に、すすめよう。  去年の夏といえば、梅雨に雨が降らなかったり、と思ったらまた、大雨にもなったりの、へんてこな夏であったが、これは、その時分の話である。(と、男は数十年前、筆者に語り出した。)  私は六月に学校を放り出されていたくせに、学生だといつわって、一カ月ほどアルバイトをした。奇矯な精神の時期でもあって、仕事のことなどまるきり頭にはなく、といって全然さぼりもしなかったから、職場のバイト仲間や若い社員などにめずらしがられ、しょ

          きりぎし(短編小説)1/4

          詩 『命のとり』

          【Twitter詩】2022.8.13投稿 私はなんて汚いこころだろうか なんてまずしい言葉だろうか けさはすずしい風が吹いているのに いのちの神が鳴いている 天のうたに目をいたむ なんて悪いかんがえになったのだ 暑さにしんどいだとは お前はどうしたというのだ 働けてもう働きたくないとは お前は 前のお前にまた迷うたのか

          詩 『命のとり』

          一行詩 『2022年初夏』

          2022年初夏 地平の陽のしっぽに詩人は悲しく泳ぎだす 2022年6月3日(金)  詩の朗読と本の野外フェス 『POETRY BOOK JAM』にて、平川綾真智さんに朗読していただきました。 ありがとうございました。

          一行詩 『2022年初夏』

          詩 『千夜の骨』

          【Twitter詩】2022.5.15投稿 きのう仕事で背中を強打して 私は似せ詩人になれた 肋骨がへし折れたのかも知れないが 定時まで働いた 夜中は疼きで寝返りできなかった 姿勢を変えるごとに 私より前に 孤独に力つきた夥しい数の亡者が 逆さまのさみしい目をして 次々と脇腹の小骨を噛み砕いた 痛、痛、、と明けまで縮んだ (画像 「奈落の娑婆地獄絵図」)

          詩 『千夜の骨』

          詩 『天光一輪』

          【Twitter詩】R4.4.19投稿 あの花はなんていう花ですか ああやって 春風にいいよられている花は 休日の果ての 嘘の私 企みにまといつくあお空 余命が療した一つぶの窮鳥 あの雲は なんていう雲ですか ああやって剣の光を刺している雲は 生きてゆきたいと満面で聞き 河飛ぶ麒麟のボリュウムを高らかと挙げ 天に向かわせ

          詩 『天光一輪』

          詩 『母空の夜』

          【Twitter詩】R2022.5.5投稿 夕べぼくは母さんの空を ほんの少し飛んだ 町の人ぜんぶ遠くに浮かんで 母さんになっていた みじかい月夜へむかった  いただきの光が  うす影の何かをつれてにじってきた 天いちめんの母さんは ぷつぷつなくなった とっても胸にきた サヨナラがはなのおくにきた ぬれたあのまなざしを 帰ってきたよとさがしつづけた 夜明けに降りて

          詩 『母空の夜』

          詩 『春のひとみ』

          【Twitter詩】2022.3.13投稿 まっすぐな心と暖かい瞳を持った春が 雲からにらんできた 私を助けてくれたのは あなたですか、と泣いていた 初めを思い出すことができないので さいきん苦しかったのだ 私の悲しみを受けて 歩調を合わせて ようやく躓いて すべてを忘れたあなたの蒼いかげ 春のひとみと まだ少しゆれる

          詩 『春のひとみ』

          詩 『花は、いつも正しく、咲くだろうか』

          【Twitter詩】2022.4.17投稿 花は、いつもただしく さくだろうか 春は、いつもただしく えむだろうか 鳥は、いつもただしく とぶだろうか 人は、いつもただしく なくだろうか 私は、いつかただしく  しぬだろうか

          詩 『花は、いつも正しく、咲くだろうか』

          詩 『詩人の行列』

          【Twitter詩】2022.4.4投稿 詩人の行列が月光に撓んでいる 私を導こうと 脚をぽつぽつと運んでおられた 病持ちのため 雲に霞み 雷鳴の誘いも聞えない 弛まず彼方へ昇って行く 指を震わせ 極星を示されている 渡り着けるでしょうか あそこに落ちた塊は 誰なのですか 今宵あの顔を必ず 見なくてはなりませんか

          詩 『詩人の行列』