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ショートショート「果た辞表」

いつも鞄の中に辞表を忍ばせている。

横塚毅は保険会社の営業マンをしている。

休み明けはいつも憂鬱な気分で会社に出社する。

辞めよう。辞めよう。今日こそ会社を辞めよう。

実際転職先があるわけではないし、副業をしているわけでもない。

ただただ辛いのだ。辛くて辛くて堪らない。

もうこんな日々は嫌だ。

上司からはノルマを設けられて、顧客からは当たり前のように毎日断られる。

学生の頃にはわからなかった。

これが生きるということなのだろうか。

中山専務の顔を見ると胃がキュッと締まる。

あぁぁ。。。

よかったぁ。。。

今月もノルマをギリギリ達成できそうだ。

あの眉間に3本縦皺を寄せた、鬼の形相を見なくて済む。

明日は休みだから、あの儀式をやらなくてはいけない。

1日経過すれば、辞表の日時がズレる。

平日は直す時間がないので、休日に訂正した辞表を鞄に忍ばせる。

以前の辞表を自分の目の前で破り捨て、新しい辞表を作り直す。

前の辞表を破った時に、自分が成長した気分になる。

そして新しい辞表を作る際、刺し違える覚悟をする。

毅が最年少部長に出世した理由だ。

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